短い人生の何気ない日常を慈しむことこそが、幸福への近道

 

Posted on 26 Feb 2020 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

「インドだから」?いえ、それは違うのではないかなと思います。写真は「Humans of Bombay」より、右側の男性がその方のようです。



若いころから起業と会社経営に明け暮れながら、一時期は毎年、10日間のヴィパッサナー瞑想キャンプに参加されていたこともあるA1氏とは、昨日もオフィスでお話しする機会が少しあった。

現在、ご依頼の案件のほかにも、客先に提案中の案件があって、そちらもお任せいただけるかもしれないという、ありがたいお話があった折に、コロナウイルスの動向を見ながらにはなってしまうが、今年前半の日本への一時帰国中に、わたしもキャンプに参加する予定であることを伝えた。

A1氏は長年の経験者として、ヴィパッサナー瞑想を、子供のころから築かれてきた人格の礎である、無意識への働きかけを試みる「心の外科手術」と表現し、マインドフルネス系の瞑想とは別物の、かなり厳しい修行のような体験になるかもしれないが、それでも「ぜひ行って来なさい」と背中を押してくれた。
そして、「帰ってきてからの君と話をするのが楽しみだ」ともおっしゃった。

特に、10日間も俗世から隔離され、あらゆるデジタルコミュニケーションからも切り離され、実質上社会的に仮死状態になることに対する不安感を吐露すると、「なんなら僕の会社がサポートできないこともないし、それは大丈夫。ヴィパッサナーは仕事なんかよりもずっと大切なことだよ」と太鼓判を押してくれ、少し気持ちが軽くなった。
そして、ちっぽけな一個人にこんな声をかけてくれて、送り出してくれる経営者なんて、世界中に何人もいないよなと、幸運に感じると同時に、A1氏が経営する会社がいずれも成功している理由が分かるような気がする。

今回のヴィパッサナー瞑想キャンプへの参加をすすめてくれたシッダールタも、「心の安定なくして、仕事の安定も、ひいては人生の安定もありえない」と言う。

近年のわたしは、仕事に追われ、仕事がなくても不安に駆られ、精神的な安定とは程遠かった。
いつの間にか、吹く風の匂いに季節の変化を感じ取る心の余裕も、気が向いた時にふらりと散歩に出かけるような時間もなくて、日々ただひたすらに稼ぐ活動ばかりに向き合ってきた。

そんな折に、フェイスブックの好きなページ、「Humans of Bombay」でも、人の生涯で最も大切なことに限って、わたしたちが見過ごしがちであることを教えてくれる投稿を見つけた。
赤地にブロックプリントの可愛らしい服を着た女性に目が留まって、読んでみた。



 

「(引用開始)I was on my way to work from Mahim to Andheri when I got into Surender’s cab. The entire ride, we made small talk about the weather, the traffic, and the city. I was eager to speak with him, because he isn’t from here and I wanted to know his story. He told me about his family in the village and how he was managing his income -- keeping only a bit for himself and sending the rest back home.
By then, I’d reached my location and was rummaging through my bag; only to realise that I’d forgotten my wallet in my other bag. The bill was almost 230 Rupees, which is a big amount... even for me! I told him, ‘Bhaiya, I’ve forgotten my wallet!’ and started apologizing profusely. But the whole time, he was so cool about it! He just said, ‘It’s okay madam. We all make mistakes from time to time.’ I was shocked -- I expected him to be mad, instead, he was consoling me! He even told me, ‘Madam, you’re getting late for your meeting. It’s alright -- please go and best of luck!’
I took down his number and went for the meeting without paying. But all day, I couldn’t stop thinking about his act of kindness -- coming from a place where he needs the money more than I do.
Next morning, I called and asked him to meet me at the pick-up point. I re-paid him, with a little extra, to make up for the trouble he went through, but he didn’t accept a single penny above 230! So after, I took him for breakfast and we chatted about life as we sipped on some hot chai.
I haven’t seen him after, but I always wish him well, because where he could have been angry and bitter, he chose to be kind and understanding. We’re often so caught up with the big things, we forget about the little ones -- the ones like these that make life beautiful. So go ahead -- be that person today. Be kind; the reason someone smiles and thinks… the world isn’t so bad after all
(引用終了)」

<要約>
ある日、アンデーリーでの会議に出席するため、マーヒームからタクシーを拾った。
スレンダーという名の運転手とはなぜか会話が弾み、小さな村から出てきてムンバイーで働き、わずかな生活費を手元に残し、後はすべて故郷に送金していることなどを聞かせてくれた。
程なくして目的地に到着してから青ざめた。
なんと財布を忘れてきたようで、230ルピーという大金の運賃を支払えないという事態に陥ってしまったのだ。
そのことを正直に伝え、何度も詫びを言う私に、スレンダー氏は怒り出したりすることも不満を表したりすることもなく、終始極めて冷静に、『大丈夫ですよ。誰でも忘れ物をしてしまうことはあるもの。さあ、会議に遅れてしまうといけないから、どうぞ行ってください』と送り出してくれた。
そこでスレンダー氏の電話番号を聞いておき、翌日、待ち合わせて少し余分にお金を返そうとした。
ところが230ルピー以上は1ルピーたりとも受け取ろうとしない。
そんなスレンダー氏の態度に心を動かされ、近くの茶店でチャーイをごちそうしながら、前日の話の続きに耳を傾けることにした。
以来、スレンダー氏に再び会うことはないが、気づけばいつも心のどこかで彼から受けた親切を思い出し、彼の幸運を願っている自分がいる。
人は大きな問題にばかり目を向けて、この話のような小さなことは忘れてしまいがちだ。
でも実際には、少し心を開いてみるだけで、人生を豊かにしてくれる体験は日常に山ほど埋まっているはず。
それに、人に親切にするかどうかは自分次第だ。
だから今日も、他の誰かに『人生はそれほど悪いものではない』と思ってもらえるような行動や態度を、せめて心がけよう。<要約終了>


最近、ちょっとした座右の銘として「~doesn't cost you anything.」という表現がよく頭に浮かんでくる。
「Saying 『ありがとう』 doesn't cost you anything.」のように(自分なりに)使っていて、つまり「『人に親切にすること』 doesn't cost you anything but can make your life delightful.」ではないだろうか。
なお、彼女が経験したようなことは、わたしもインドで何度も経験したことがある。
その話は、いつか改めて綴りたい。

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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