インドにおける言語事情と多言語教育: データから見る現状
Posted on 05 Mar 2025 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
画像は記事とは直接関係ないんだけど、ある日の日記帳より。
「The Hindu」で、ヒンディー語ネイティブ話者とそれ以外の言語ネイティブ話者との間での、他言語学習状況についてのデータが示されていた。
Over 90% in Hindi-belt states speak only one language, rest of India is more bilingual: Data
ヒンディー語圏以外の州、特に南部の州では、長年にわたり「3言語方式の導入が間接的にヒンディー語を強制することになるか否か」という問題が取り沙汰されてきた。
ヒンディー語を母語とする人々と、ヒンディー語を母語としない人々の間には、言語政策や学習意欲に関して大きな違いがあると言われている。
実際、データによれば、ヒンディー語を母語としない人は一般的に他言語の学習に積極的であるのに対し、ヒンディー語を母語とする人は他言語への関心が低いことが示されている。
以下では、1991年と2011年の言語国勢調査データに基づき、特定の州におけるモノリンガル(母語または第一言語のみを話す人)およびバイリンガル/トリリンガル(複数の言語を話す人)の割合を概観しながら、多言語習得の状況や背景にある社会的要因を探っている。
1. モノリンガルからマルチリンガルへの移行傾向
たとえば1991年には、タミル・ナードゥ州のタミル語ネイティブ話者の84.5%がモノリンガルだったが、2011年までに78%に低下した。
同様に、オリッサ州のオリヤー語ネイティブ話者のうちモノリンガルの割合は86%から74.5%に低下している。
こうした傾向は、マハーラーシュトラ州のマラーティー語話者、パンジャーブ州のパンジャーブ語話者、グジャーラート州のグジャーラート語話者、アーンドラ・プラデーシュ州のテルグ語話者をはじめとする、ヒンディー語が母語でない州でも広く見られるものであり、マルチリンガル志向への着実な移行を示している。
対照的に、ヒンディー語が主要な第一言語である州では、モノリンガルの割合が高いままであり、時間の経過とともにその割合が一層増加している。
たとえば1991年の分割前のビハール州では、ヒンディー語ネイティブ話者の90.2%がモノリンガルだったが、2011年までに分割後のビハール州では95.2%に上昇した。
同様に、ラジャスターン州ではヒンディー語ネイティブ話者のうちモノリンガルが1991年の93%から2011年には94.3%に増加し、この傾向はウッタル・プラデーシュ州やヒマーチャル・プラデーシュ州でも同様に見られる。
2. 英語話者の割合と地域差
さらに、各州の多言語話者のうち、1991年と2011年の各州の母語話者における英語話者の割合を見ると、地域差が顕著に表れている。
たとえばタミル・ナードゥ州では、1991年には母語のタミル語話者の13.5%が英語も話していたのに対し、2011年には18.5%に増加した。
対照的に、ハリヤーナー州では同期間に母語のヒンディー語話者のうち英語も話せる人の割合が17.5%から14.6%に減少している。
こうした動向からは、ヒンディー語圏の州の一部で英語能力の低下または停滞が見られる一方、ヒンディー語圏以外の州では英語話者が増加していると言える。
特にタミル・ナードゥ州、オリッサ州、パンジャーブ州で顕著な上昇が見られ、グジャーラート州やマハーラーシュトラ州などでは緩やかな増加にとどまっている。
3. ヒンディー語話者の増加と英語話者の増減
1991年から2011年にかけての、各州の母語話者のうちヒンディー語話者の割合にも注目すべき点がある。
たとえばタミル・ナードゥ州では、1991年には母語話者のわずか0.5%がヒンディー語も話していたのに対し、2011年には1.3%とわずかに上昇した。
一方、カルナータカ州では、母語話者のうちヒンディー語も話せる人の割合は8.5%前後で停滞している。
対照的に、グジャーラート州およびマハーラーシュトラ州では、母語話者のうちヒンディー語も話せる人の割合が大幅に増加している。
たとえばグジャーラート州では、グジャーラート語ネイティブ話者のうちヒンディー語も話す人の割合が1991年の21.6%から2011年には39%に増加し、マハーラーシュトラ州でもマラーティー語ネイティブ話者のうちヒンディー語も話す人の割合は35.7%から43.5%に増加している。
さらに、ヒンディー語がネイティブではない州においては、ヒンディー語話者の増加がわずかであっても、英語話者の増加が顕著に見られるという点が特徴的である。
ただし西部および東部の州では英語話者の増加は比較的控えめで、ヒンディー語を習得する人の数が大幅に増加したケースもある。
一方、ヒンディー語がネイティブの州では英語の使用があまり伸びていないことがデータから読み取れる。
4. HDIとの関連:英語普及率と生活水準
実利面で注目すべきデータとして、各州および連邦直轄領における人間開発指数(HDI)スコアとの比較がある。
英語話者の割合が高い地域ではHDIスコアも高くなる傾向があり、ヒンディー語話者の割合が高い州ではHDIスコアが一般的に低いという明確な傾向が見られる。
これは生活水準の高さと英語能力の普及率の高さの間に正の相関があることを示唆している。
以上のデータを総合すると、ヒンディー語圏以外の州、とりわけ南部の州においては、3言語方式などの教育政策や社会的背景の影響も相まって、多言語への移行が比較的進みやすい環境が整いつつあると考えられる。
一方、ヒンディー語を母語とする州では、他言語への関心が低く、英語話者の割合も伸び悩んでいる傾向が強い。
また、英語能力の普及率が高い地域ほどHDIスコアも高くなるというデータは、言語教育の選択や習得が個人のキャリアや生活水準に与える影響の大きさを示唆している。
出典:
言語国勢調査
Global Data Lab
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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