コルカタの野良犬と、それを取り巻く人々を描いたドキュメンタリー映画「Pariah Dog」
Posted on 06 Jun 2019 21:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh
わたしの暮らすプネーの住宅街でも、野良犬たちがどんどん増え続けているようです。写真は我が物顔で「CCD」前に居座るこです。
依然として福岡に居座り中である。
毎朝、実家周囲の田園風景から海岸にかけてを、さまざまなコースで平均5〜6キロメートル、1時間ほどかけて散歩している。
日本の街を歩いていると、放し飼いの動物を見かけることはほとんどない。
たまに野良猫に遭遇するぐらいだ。
一方のプネーでは、毎朝毎晩、散歩のたびにいろいろな動物、主に犬たちとのふれあいが待っていて、それが最大の楽しみだったりする。
日本にも野良動物たちが戻ってきたらいいのにな。
コルカタでは、野良犬たちに近所の人たちが定期的にフードを与え、愛情を注いでいるようだ。
「Scroll.in」では、そうした野良犬と人との触れ合いをドキュメンタリー映画にしたアメリカ人男性について取り上げていた。
Film about Kolkata’s stray dog feeders proves that love has no limits
米ロサンゼルス出身のジェシー・アルク(Jesse Alk)さんの撮影・制作したドキュメンタリー、「Pariah Dog(インド南部の最下層民を指す言葉が由来の、「社会のつまはじき者」という意味の「Pariah」という単語を関する「パリア犬」は、「(『世界大百科事典』引用開始)東南アジア、インド、中近東、北アフリカなどの路上を半野生の状態で徘徊(はいかい)しているいわゆる野良犬で、腐肉や残滓(ざんし)の掃除屋として暮らしている(同引用終了)」では、無私無欲で路上の動物たちを世話する人々を追っている。
野良犬たちが徘徊していないインドの都市はほとんどないと言ってよく、またどの都市にも必ず、毎日フードをあげたり、怪我を手当してあげたり、名前を付けて居場所を与えたりしている、心優しい人々がいる。
ジェシー・アルクさんのドキュメンタリー映画、「Pariah Dog(http://www.pariahdogmovie.com/about.html)は、コルカタでそんな野良犬たちの世話をしている人たちを描いた、心を奪う物語だ。
惜しみない愛情と飽くなき情熱が、没落した元良家の女性、犬たちと暮らせる土地の購入を夢見るアーティスト、オートリクシャー運転手をしながらリアリティ番組に出場する人、そして犬たちに生活を捧げる未婚の家政婦の物語を紡ぐ。
「Pariah Dog」は、犬に給餌する人々の性格を描写するほか、「社会機構の変化と、30年後には見られないもの、という変化と衰退」(ジェシー・アルク氏談)が刻まれたコルカタの街並みが浮かび上がらせている。
ドキュメンタリーは最近、クラクフ国際映画祭で上映され、また近々サンフランシスコの「DocFest」でも上映される予定だ。
77分間の上映時間の中で、ジェシー・アルク氏は犬たちへの給餌が、この街の市民がミルクを買ったり、新聞を読んだりするような感覚で日常の一部となっている、出演者たちひとりひとりの人物像を、少しずつ明らかにしていく。
アパルナ・セン(Aparna Sen)の「36 Chowringhee Lane」で、完璧なアクセントの英語が記憶に残るミリー(Milly)さんは、野良犬たちの世話をすることに強いこだわりを持っており、ゆえに近隣の人と時折トラブルになることがある。
ミリーさんは自身の家事手伝いとして雇うカジャル(Kajal)さんを伴って、命ある限り野良犬たちの面倒を見ると情緒的に宣言する。
「犬たちこそが、何も残されていない私の未来だから。」
改造したオートリクシャーを運転して日銭を稼ぐアーティスト、ピナキ(Pinaki)さんも、犬たちを思う気持ちは負けていない。
一番強烈なのはオートリクシャーワーラー(運転手)のスブラター(Subrata)さんだ。
フード入りの袋を手に通りという通りを巡り、動物愛護を訴えて時折路上デモをし、そしてTV番組にも出演している。
特に有名クリケット選手、ソーラブ・ガングリー(Sourav Ganguly)氏が司会を務めるクイズ番組、「Dadagiri Unlimited」に出演し、賞金を獲得したことは、スブラターさんにとって人生のハイライトだ。
映画が照らし出す営みは、経済の最底辺で危険と隣り合わせに生きながらえる命を浮き彫りにしている。
常に腹を空かせた動物たちと、その世話をする生活するのがやっとの人々との間に、共通点はないだろうか。
台湾人映画製作者、Tsai Ming-liangが2013年に手掛けた、台北のホームレス一家を取り上げた刺激的な作品、「Stray Dogs」を彷彿とさせはしないだろうか。
「出演者は皆独り身で、満たされず、人生で渇望する何かがあり、そうした気持ちを動物たちへの愛情で穴埋めしているのだ」ジェシー・アルク氏は分析する。
「これまでの人生で相当な苦しみを経験してきたから、犬たちの痛みがわかる」と語るのはオートリクシャーワーラーのスブラターさん。
人と犬とが触れ合うシーンには、疑いようのない悲哀があり、またそれぞれの物語は意外な展開をしたりする。
特にミリーさんの物語は劇的なものであり、他の出演者以上に、犬たちに給餌する人々に対して都市の生活者が投げつける、「人間嫌い」のレッテルとしての否定的な見解を喚起してしまう。
「どの出演者も、いつかどこかで気違い呼ばわりされた経験がある」ジェシー・アルク氏。
「虐げられた経験だってある。特に女性は過酷だ。しかし撮影が進めば進むほど、予め聞いていたステレオタイプが真実でなかったことに気づいた。店番をしている人や商店主も、犬たちに餌を与えている。多かれ少なかれ、何らかの手を差し伸べる人が常にいるというだけのことだ。」
45歳になるジェシー・アルクさんが初めてコルカタを訪れたのは2010年だった。
映画編集者の父親、Howard Alk氏が1976年に制作したEthnographicドキュメンタリー映画、「Luxman Baul's Movie」の出演者に会うためだった。
その滞在中、何名かのコルカタの映画製作者と知り合う機会があった。
後に「Pariah Dog」の製作総責任者となるアディティ・シルカル(Aditi Sircar)さんも、そのひとりだ。
「アディティさんからは自分の家族と同居し、コルカタで映画を作ってはどうかと誘われた」ジェシー・アルク氏は回想する。
カリフォルニア大学でフィルム制作の学位を取得したが、意に反して音楽コンサート業界に就職、しかし「ドキュメンタリー映画を制作したいという気持ちはずっと持ち続け、自分の居場所はここではないと感じていた」
コルカタへの訪問は、何もかもを変えるきっかけとなった。
「活気ある街に元気づけられ」て、ついに「生きている実感」を得た。
そして、この街を初めて訪れた外国人が誰でもそうであるように、ジェシー・アルク氏は通りを闊歩する犬たちに衝撃を受けた。
「犬たちが違和感なくどこにでもいる様子が、何かを訴えかけてくるようだった。
犬たちが厳密な意味での野良犬ではないことにジェシー・アルク氏が気づくまで、時間はかからなかった。
ほどなくして、動物愛護活動家やよきサマリア人たちに行き着き、2014年には野良犬たちのいる街角で6週間近くにわたる偵察を行い、そして望遠レンズの使用や、犬たちの警戒を解くための限定的な餌付けなどの工夫を投じながら、本格的な撮影に入って行った。
映画製作チームも徐々に大きくなっていった。
こうして撮影した映像は165時間分にも及び、コルカタの印象を大切にしたシーンを厳選して編集、完成した「Paiah Dog」は今年2月、米モンタナ州の「ビッグスカイ・ドキュメンタリー映画祭(Big Sky Documentary Film Festival)」でプレミア上映し、最優秀賞を授賞している。
本日最も読まれている記事
1 空前のインド料理ブーム、でもスイーツはノーマークなあなたへ 29 May 2019
2 ポルトガル鉄道のインターネット事前切符予約 26 Oct 2016
3 誰がなんと言おうと追及し続けたい翻訳者としてのキャリア 30 May 2019
4 ヤマハがインドで楽器生産開始の感慨 31 May 2019
5 インドに流れ着いた「ロスト・ジェネレーション」 02 Jun 2019
About the author
|
|
Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
|
User Comments