減りゆくパールスィー・カフェと、その独特のメニュー、そしてプネーの店舗

 

Posted on 03 Jun 2019 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

パールスィー・カフェはイラーニー・カフェとも呼ばれることがあり、早い、安い、うまいの代表格です。



「NPR」というオンライン・メディアで、消えゆくパールスィー・カフェの盛衰について紹介していた。

Parsi Cafes, A Centuries-Old Tradition In India, Are Vanishing

「パールスィー・カフェ(Parsi cafe)」、または「イラーニー・カフェ(Irani Cade)」と呼ばれる飲食店は19世紀末ごろ、ゾロアスター教徒(イランを出自とすることから「パールスィー」と呼ばれている)たちがムンバイーで始めた。

数千年前、イスラーム教が誕生するよりもずっと先にイランで生まれたゾロアスター教は世界最古の宗教のひとつとされており、「good words, good thoughts and good deeds(良き言葉、良き考え、良き行い)」の三徳を積むことが教義の軸となっている。
そんな「パールスィー・カフェ」は以来、イランやグジャーラート(およそ1,300年前にイランを離れたパールスィーたちが最初に上陸した場所)を起源とする独特のスパイス使いをした、エキゾチックながら質の高い食事を、安価に提供していたこともあり、カースト制度や宗教的な禁忌が偏在する大都市の中でも唯一、誰もが自由に食事を取り、交流できる場所として受け入れられ、広がった。

ところがその「パールスィー・カフェ」の数が近年、激減している。
かつてはムンバイーだけで400軒あまりが営業していたが、いまやその数は40軒にも満たない。

理由は、他宗教からの改宗を認めず、主に(親族を含む)教徒同士で婚姻するとされるパールスィーたちの人口減少と、若い世代が店を継ごうとしなくなっていることが挙げられている。
20世紀中ごろにはインドに12万人ほどとされていたパールスィーの人口は、現在その半数未満になっているものと試算されているようだ。

元の記事で紹介されているのはパールスィー・カフェの老舗中の老舗、「Britannia & Co.」で、97歳の経営者、ボーマン・コーイヌール(Boman Kohinoor)さんが、イギリス領時代から80年以上、毎日変わらず現役で店に立っている。



 

観光の中心地であるフォート地区からほど近いこの店は、老朽化が激しく、傾きかけ色褪せた内装にもかかわらず、イギリス王室のロイヤル・ファミリーもたびたび訪れているという。
看板メニューはやはり、「チキン・ベリー・プラオ(Chicken Berry Pulao)」だ。

コーイヌールさんによれば店名の「Britannia(ブリタニア、大英帝国 [British Empire] の別称)は、創業者の父が1923年の創業時、物件を所有していたイギリス人行政官の心象をよくしようと狙って付けたものだという。
このため当初はヨーロッパ的なメニューを展開していたが、1947年にインドがイギリスから独立すると、パールスィー独特のイランをルーツとするメニューに入れ替えた。
「sali boti」と呼ばれる、羊の肉をトマトやジャグリー(精製していない糖蜜)、玉ねぎをともにスパイスで煮込み、仕上げにフライドポテトをあしらった料理も、そのひとつだ。

「チキン・ベリー・プラオ」は、柔らかい鶏肉のぶつ切りをコクのあるトマトソースで煮込み、ピラフと混ぜたものに、甘酸っぱいバーベリー(メギ)をトッピングしたクセになるおいしさだ。
このほか、フラッシュ・ライム・ソーダ(Fresh Lime Soda)やクリーム・キャラメル(Creme Caramel、プリン)を流行させたのも、ブリタニアをはじめとするパールスィー・カフェだ。

コーイヌールさんには58歳の息子と27歳の孫娘がいて、いずれも店を手伝っている。
うち息子のロミン(Romin)さんはしぶしぶだが、大学で法律を勉強した孫娘のダイアナ(Diana)さんは「自分の代で潰すわけにはいかない」と意欲的だ。

店舗数が全盛期と比較して激減したとはいえ、根強いファンは今も数多くおり、わずかながら新店もオープンしている。
わが家の所在するプネー東部カルヤーニー・ナガルにも、最近になり、その名もずばり「Irani Cafe」が昨年、新たに開店し、平日でも開店時刻の午前6時を過ぎたら、たくさんの人たちが朝食を取っている。

プネーのイラーニー・カフェといえば、いまでも真っ先に思い浮かぶのは、キャンプ(Camp)にかつてあった「マハーナーズ(Mahanaaz)」だ。
あの店で提供していたキャベツ・サモーサーの味は、閉店してから10年以上が経つ今でも忘れられない。
また、いつか開店してくれないかな。

※参考:プネーのイラーニー・カフェ(パールスィー・カフェ)

9 Restaurants To Hit When You’re In The Mood For Some Parsi Food(2019年2月更新)

10 must-visit Irani cafes no Pune foodie can give a miss(3年前更新なので、閉店している店もあるかもしれない)

本日最も読まれている記事
空前のインド料理ブーム、でもスイーツはノーマークなあなたへ 29 May 2019
A Memorable Day in Fukuoka 26 May 2019

誰がなんと言おうと追及し続けたい翻訳者としてのキャリア 30 May 2019
ポルトガル鉄道のインターネット事前切符予約 26 Oct 2016
ヤマハがインドで楽器生産開始の感慨 31 May 2019

 





        



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments