待望の映画「Super 30」を鑑賞したものの

 

Posted on 29 Jul 2019 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

楽しみにしていただけに、久しぶりに外れたかな(あくまで当社比)。



ヴィカス・バール(Vikas Bahl)監督、リティク・ローシャン(Hrithik Roshan)主演の映画「Super 30」を鑑賞した。

スーパー30(Super 30)」とは、数学教師のアナンド・クマール(Anand Kumar)氏がビハール州パトナ(Patna)で、才能があるのに経済的な事情から勉学を続けられない子供たちを毎年30人選抜し、全員をインド最高峰の教育機関であり世界のエリート養成校であるインド工科大学(Indian Institute of Technology)、通称IITに合格させるために授業料も寮費も無料で特訓する、伝説の超スパルタ全寮制塾のことである。

アナンド・クマール氏との面会と「スーパー30」への訪問を企画されている旅行会社のページに、分かりやすくまとめてあった。

Super30 インド 驚異の学力 |トラベルサライ

ASKSiddhi(アスクスィッディ)でもたびたび紹介している。

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鳴り物入りで上映された割に、わたしからすると啞然とするほど中身に乏しい作品だった。
インド人であれば誰もが知っているであろう「Super 30」についてのストーリーなのだから、アナンド・クマール氏がどのようにして才能のある子どもを発掘したのか、集中して勉強させるためにどんな工夫をしたのか、このモデルを将来も持続させるためにどんな秘策を取り入れているのか、「Super 30」からIITに進学した生徒たちの、その後の活躍といった、あくまで事実に忠実な、知られざる裏話や苦労話を見られるのではないかと鑑賞する前は期待していた。

しかし実際は、大げさな演出に、ところどころ不要なラブストーリーなどが盛り込まれた、陳腐で分かりやすいアドベンチャーストーリーにまとめられてしまっている印象で、特にアナンド・クマール氏が度々嫌がらせや暴力を受けたりしたことは事実なのかもしれないが、脚色が入り過ぎて感情移入が全然できなかった。

事実に忠実に描くことはできなかったのか。
「Super 30」についてみんなが知っていること、その「1行分」を余計なドラマをてんこ盛りにして3時間かけて演出している、という印象だ。
本当にあったことだけを淡々と綴っていくだけでも、相当の迫力があったはずだが。

残念ながら、リティク・ローシャンという押しも押されもせぬスーパースターを、さらにプロモーションする映画にしか見えてこなかった。
ついでに言うと、わたしはリティク・ローシャンさんが出演する映画を観たことは数えるほどしかないが、今回の作品に関しては適役ではなかった気がする。
演技が全然冴えていなかった。

ただし映画館では、一度は不当な扱いを受けたアナンドが尊厳を取り戻したり、決め台詞を言い放ったり、また生徒たちがIITに合格したりといった場面では拍手が起こっていたし、動員数と興行収入ではまずまずの成功となっており、インドの一般観客には受けてはいるようだ。

Super 30 Box office Collection Day 17: Hrithik Roshan's film witnesses massive growth of 108% in third weekend

「『The Lion King』と肩を並べる好調」とあるが、リティク・ローシャンを鑑賞しに来た人が大部分を占めるのではないのかな。

わたしの感想に最も近いのは、「Hindustan Times」に掲載されていた次のレビューだ。

Super 30 movie review - Hrithik Roshan tries hard in this ordinary film about an extraordinary man _ bollywood - Hindustan Times

スーパースター以外の配役として、生徒役に一般の若者たちが「スーパー30」の生徒を演じていたのはよかった。

映画「Super 30」では、人間の持つ底なしの力は学問の力で開放できる、というメッセージを発信しようとしているのだろうということは分かった。

しかしオチが「IIT全員合格」(すなわちアナンド=リティック・ローシャンの成功)しかなくて、様々な横道を挿入したにもかかわらずそれらが回収されないまま放置された、中途半端なエンターテインメント作品だ。
できれば生徒たちの人生が、IITに合格し、勉学し、卒業することによってどう変化したのかまでを追えるようにして、「困難な状況にあっても希望を捨てずに集中し、努力し続けること」、「人を信じ、機会を与え続けること」のできる環境を作り、維持することの大切さを、観客たち、ひいてはインド社会に強く訴える内容であって欲しかった。

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Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

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