「Gully Boy」を鑑賞、ダーラーヴィー・ラップが世界を席巻するか

 

Posted on 24 Feb 2019 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

何かを変えるためには、ハートだけではなく地道な努力も必要なのだということを、サラッと伝える作品でもありました。



プネーに帰って来てさっそく、お待ちかねだった映画「Gully Boy」を、カルヤーニー・ナガル(Kalyani Nagar)のシネプレックス、「Carnival Cinemas Kalyaninagar Gold」で鑑賞した。


「Gully Boy」公式トレイラー



 

2月23日現在、同シネプレックスでは午前8時から、2つのスクリーンで日本で言うところのレイトショーの時間帯まで、ほぼ1日中上映しており、注目の高さを伺わせる。
週末とは言えショッピングモール併設でもない比較的マイナーなシネプレックスなのに、土曜日17時の回はほぼ満席、客層はまさに老若男女が混交していた。
日本でも首都圏ではを中心に、一部映画館で上映されているようだ。

Space Box「Gully Boy」

映画にもラップにも疎いわたしが下手くそなレビューを付けるのも無粋なので、「Gully Boy」鑑賞のきっかけをくれた、軽刈田凡平(かるかった・ぼんべい:@Calcutta_Bombay)さんの作品に対する愛あふれる、細やかな解説を、「アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり」でぜひ読んでみて欲しい。

アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり - 映画Gully Boyのレビューと感想(ネタバレなし)

特に「(引用開始)『ストリートラッパーの人生がスター俳優主演でボリウッドで映画化する』というこの映画そのものが、この映画のモデルになったNaezyやDivineにとっての最高のサクセスストーリーになっている(引用終了)」や、「(引用開始)この映画は、DVDになったときに、『バーフバリ』とか『ムトゥ』の隣ではなく、"8 Mile"とか、"Straight Outta Compton"の隣に並べてもまったく構わない(引用終了)」の箇所には強く共感する。

さらに本日(24日)付けではインドにおけるヒップホップの歴史についてもまとめてくださっていて、痒い所に手が届く配慮だ。

アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり - Desi Hip HopからGully Rapへ インドのヒップホップの歴史

加えてポポッポーさんの「ポポッポーのお気楽インド映画」にも、キャストや社会的背景、他のボリウッド作品との比較などの詳しい記事がアップされていた。

ポポッポーのお気楽インド映画 【Gully Boy】

さらにネット上では、ムンバイーのJBナガルに日本からわざわざ赴いて鑑賞された方の、素晴らしいレビューも拝読していた。



 

実は、飛ぶ鳥を落とす勢いのランヴィール・シン(Ranveer Singh)さんの作品を観るのは、この「Gully Boy」が初めてだったが、さすが一目で惚れ込んでしまうしなやかな表現力に魅了された。
全編ヒンディー語で字幕なしだったので、内容理解に辛いところがあるかと当初は身構えたが、ラップ本来の持つ魅力である、言語を超越したメッセージ性のおかげもあってか、言語の壁をさほど感じることなく、逆に字幕がないことで割り切って画面に集中し、楽しむことができた。
またラブストーリーも含めたヒューマンドラマ的な部分は、観衆への分かりやすさを目指してか陳腐な印象が拭えなかったが、名を連ねる俳優陣の確かな演技力(目力)で乗り切っていた。

その他のメモとして、2001年の「モンスーン・ウェディング(Monsoon Wedding)」以来秘かにファンだった父役のヴィジャイ・ラーズ(Vijay Raaz)さんの凄味のある演技に釘付けになる一方で、その息子ムラード(Murad)役のランヴィールさんはけっこう似た顔立ちをしているなぁとか、ダーラーヴィーの一角の、プライバシーのへったくれもない狭小な住居内でムラードが寝っ転がるシーンで垣間見える、粗末な布団やシーツの薄汚れ具合が妙に現実味を帯びていることとか、映画関係者一族のもとに生を受け、自身もスーパースターとして君臨、これまでも今もこれからも何不自由なく、人々に注目され、輝ける生活を保証されているかに見えるランヴィールさんが、その対極にある最貧困層の暮らしを肌から骨身に沁み込ませ、表現するということは、どういうことなのか、何を示唆するのか、とか。

また、絶望的に問題が山積みなスラムの生活の中で、多少のお金はさほどの足しにならないように見えるけど、それでもコツコツ地道にやるべきことがあって、それをこなしていける者だけが這い上がれるのかもしれないが、そうしたものを掴めない人は、それでも生きていくためには手段を選べないことがある、逆にそうした「やるべきこと」「やり続けられること」の創出こそが鍵なのではないか、などとということを、巧みなラップに乗せて考え続けた3時間だった。

〇年の「スラムドッグ」(この作品はとうとう最後まで鑑賞していない)を持ち出すまでもなく、ダーラーヴィーは謂わばブランド化しつつあるかに思える。
「Gully Boy」はそのダーラーヴィーに息づく人々のエネルギーを爆発させるような力を持った作品に見えた。
ヒンディー・ラップ、ムンバイー・ラップ、否、「ダーラーヴィー・ラップ」は最高にかっこよく、これからインド全土はもちろん、全世界で流行していく余地も多分にある。
もちろんわたしも、作品の元となったラッパー、DivineとNaezyのミュージックビデオを片っ端から鑑賞している。


MERE GULLY MEIN(英語字幕付き)

 

上映後、映画館はにわか「プネー・ラッパー」たちが各所に誕生していたのも、観客たちの満足度を純粋に表していた。
なお、主役と父役以外にも、ムラードのメンター役のMCシェール(MC Sher、本名シュリカント [Shrikant])を演じたシッダーント・チャトゥルヴェーディー(Siddhant Chaturvedi)さんや、友人モイーン(Moeen Arif)役のヴィジャイ・ヴァルマー(Vijay Varma)さんの好演にも、強く心を動かされる。

個人的には、ほぼ全編がダーラーヴィーで撮影されたというこの作品は、2018年に日本でも大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディー(Bohemian Rhapsody)」よりも、よほど迫力があるものに感じられた。
ぜひ、日本でも全国上映してもらいたい。

なお、先述の凡平さんのブログでは、このまさに激アツなムンバイーのラップ界に乱入し、新たなムーブメントを起こそうとしているスーパークールな日本人アーティスト、Hirokoさん(@sarahhiro)の活動についても詳細にインタビューされた記事を紹介しており必読だ。

アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり - 日本とインドのアーティストによる驚愕のコラボレーション Mystic Jounetsu って何だ?


Best Chill Hip Hop Song
Mystic Jounetsu ミスティック情熱 - Ibex feat. Hiroko beats by
Kushmir

 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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