年初、福岡の母も一緒にプネーに帰って来て1か月ほど滞在、母とともにバンガロールとマイソール、チェンナイへ10日間ほどの旅に出るなどして、慌ただしくも楽しい日々を過ごした。
すでにコロナの報は連日インドにも流れ込んでおり、街中でマスクをかけている人こそ皆無だったものの、ホテルやレストランなどで「中国人?」と尋ねられるたびに緊張感が走った。
2月初旬に母が日本へ帰ってしまうと、じわじわとインドでもコロナの影響が現れはじめた。
実際、2月7日の帰国時にムンバイーのチャットラパティ・シヴァージー空港を利用した母によると、空港内は職員全員がマスクを着用していたという。
それでも2月上旬は念願だったサリーの女王、ニキータ(Nikaytaa)さんのワークショップに参加したり、お世話になっている会社の新年会に呼んでいただいたり、また日本式にバレンタインのチョコレートを配ったりと、どちらかと言うと充実した日々を過ごしていた。
一方で、ウーバー(Uber)やオートリクシャーで乗車拒否されたり、道で「コロナ」と呼ばれたりすることがちらほら発生しはじめた。
3月に入り、世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言をする前後くらいから、外出を控えるようになった。
そのまま21日にモーディー首相宣言による「Janata Curfew」が打ち出されたことをきっかけに、インド全土はロックダウンに突入、当初は21日間という予定だったので、「それぐらいなら耐えられるかな」と覚悟を決めた。
実際には、ほぼ外出が許されない厳格なロックダウンは、3か月ほども続いた。
プネーの季節も春から夏に移行し、日に日に暑くなる中、散歩にも出られない状況で家の中に閉じ込められていると息苦しさを感じ、また夜中に何度も目を覚まし、過呼吸発作や睡眠不足に陥るなど、精神的に不安定にもなった。
早朝、24時間営業の薬局に向かう途中で警官につかまり、「感染拡大防止」とは対照の、ぎゅうぎゅうの車内に詰め込まれて署まで連行されたこともあった。
買い物にもめったに出られず、ネットスーパーは注文が殺到しているのかスロットがなかなか空かず、欲しいものが手に入らない。
野菜やコメ、チャパーティー用の小麦粉などの、現地の人が「必需品」とする食材は、団地併設商店(キラナ)に行けばあるし、また野菜商の人々が週1~2回ほどの頻度で中庭に来て売ってくれるので、飢える心配はない。
しかし、「それ以外のもの」はほとんど手に入らず、つまり日々手に入る食材に「遊び」が一切なくなったのだ。
ちなみにわが家は夫が料理をしてくれるので、日々のマハーラーシュトラ料理はおいしくいただいているのだが、たまには好きなものをちょっとでもいいから食べたい、というささやかな願望すら叶わないのは、想像以上に辛い経験だった。
同時に、そうした生活(現地食以外に食べるものの選択肢がほぼない)は、2003年の移住当初は当たり前だったことも思い出させられ、近年のプネーでの生活が、どれほど豊かで、恵まれ、便利になっていたのかを、改めて実感することになった。
まったくスロットの空く気配のないネットスーパーのアプリ画面をにらみながら涙を流したことも数知れない。
しかし日々報道される、劣悪な環境や不当な差別の中、必死でコロナと戦っている医療従事者たちや、突然職を失い、故郷までの何百キロもの道のりを、着の身着のまま徒歩で帰っていく労働者たち、ソーシャルディスタンスなど取りようもないスラム街の人々の存在をはじめ、自分なんかよりもっともっと大変な状況にある人々のことを想像すると、腐りそうな心にブレーキがかかった。
そうした日々の中で癒やしとなったのは、団地の中庭に週1回、売りに来る行商人から買うアイスの味だ。
あんなにおいしいアイスクリームは、かつて味わったことがない。
グアバ(マラーティー語ではPeru)のアイス。
コロナは日常の中で小さな感動を見つけることを得意にしてくれた。
また、YouTubeを観ながらの室内エクササイズや、ランチタイムのNetflix視聴で現実逃避など、自宅に閉じ込められながらの日々でも、それなりに楽しく過ごすように心掛けた。
このころのさまざまな出来事や複雑な気持ちは、日本の友人や知人に話しても、理解することはなかなか難しいだろうと思うし、今はまだ、とても笑いながら話せるような心境にはなれない。
仕事も徐々に減り、特に4月は自分史上最悪の業績となった。
しかしあくまで冷静に、翻訳学校フェロー・アカデミーでオンラインによるメディカル翻訳の中級コースを受講しはじめたことと、新たに翻訳会社のトライアルを何社も受けておいたことは、現在の(かなり難易度は高く心折れそうになるが)上級コースの受講と、比較的安定した案件受注につながっている。
なお、4月と言えばインド全土ロックダウンのまっただ中、すなわち「お金があってもモノが買えない」日々を過ごしていたので、経済的な不安もあまりなかったのは、皮肉だが幸運でもあった。
このころ、同じ団地内に住むインド親戚に日本での就職話が持ち上がり、せっかく時間もあったので、日本語や日本でのマナー全般など、ブラッシュアップのお手伝いを持ち掛けたが、思ったほど続かず、最終的には音信不通となってしまった。
インド人あるあるで予測はしていたのだが、このことは今でも心残りで、また自分に指導者としての素質が皆無であることを再認識することにもなりちょっと落ち込んだが、失敗を受け入れることで、自らの精神的な成長にはつながった。
コロナ禍による外出禁止という異常事態に、誰もがただじっと耐えるしかない中、どんな態度や出来事にも、精神的なものも含めた、さまざまな要因が考えられる。
だからこそ、どんなことも自分目線だけでなく、他者目線からも多面的に考えてみることが大切だ。
そして命に関わることでない限り、他者の行動など、少なくとも自分の力は及ばないし、どうにもできないことは、ある程度はあっさり諦め、ほかのできることに力を注ぐほうが賢明であると学んだ。
何事も深く考えすぎず、どんな時でも、またとない人生の一瞬を存分に味わって生きていきたい。
以上は今年前半までの振り返りである。
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なお、現状に何ら役立つ情報をご提供できていない「ASKSiddhi(アスクスィッディ)」なので、せめて「在ムンバイ日本国総領事館」より日々発信されている州内の状況や州政府による措置に関する最新情報を、今後はこちらにも転載させていただきたい。
=== 以下、同掲題メールの転載 ===
※12月23日付けのメール、件名「全日空(ANA)による成田ムンバイ間の臨時便運航」
【ポイント】
●全日空(ANA)では、インド航空当局の許可を取得することを前提に、インド政府が設定したエア・バブルに基づく便として、1月16日に成田発ムンバイ行、1月17日にムンバイ発成田行の臨時便を運航することとなりました。
●ANAによれば、同便の予約受付・販売は12月24日(木)11:30(インド時間)から開始予定とのことです。
●こちらの便は航空会社のウェブサイトでの予約受付・航空券購入が可能です。
●なお、日本外務省はインドについて「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」の感染症危険情報を発出しています。インドへの渡航を検討される場合は、インドにおける感染状況を踏まえ、渡航の必要性や時期について慎重に御検討ください。また、インド政府の外国人の入国に関するガイドラインに御留意願います。
在留邦人の皆様へ
全日空(ANA)による成田ムンバイ間の臨時便が運航されることになりましたところ,お知らせします。なお、本件照会については、ANAお問い合わせ先までご連絡いただければ幸甚です。
1 全日空(ANA)では、インド航空当局の許可を取得することを前提に、インド政府が設定したエア・バブル(新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策としてインド政府が実施している国際定期旅客航空便の飛来禁止措置の例外措置)に基づく便として、1月16日に成田発ムンバイ行、1月17日にムンバイ発成田行の臨時便を運航することとなりました。
2 ANAによれば、同便の予約受付・航空券購入は12月24日(木)11:30(インド時間)から開始予定とのことです。なお、空席状況確認や航空券の予約・購入方法等はANAウェブサイトをご確認ください。詳しくは、ANAにお問い合わせください。
(ANAウェブサイト)
https://www.ana.co.jp/ja/jp/international/
(ANAお問い合わせ先)
ANAムンバイ支店予約担当:bomrsvn@ana.co.jp(営業時間<インド時間>:9:00-18:00)
※英語/日本語での受付となります。
※上記の臨時運航便以外についてのお問い合わせ先は以下の通りです。
電話: (インド国内)000800-100-9274 ※24時間対応 ※通話無料
(インド国外)+81-3-4332-6868 ※24時間対応 ※有料
3 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、インド政府よりインド到着旅客に関する情報の提出が義務付けられています。ANAによれば、インドへの航空券を予約・購入された方は、出発の48時間前までに、必ずANAムンバイ支店予約担当に渡航に際し必要な情報の連絡が必要となるため、以下のANAからのお知らせを必ずご確認ください、とのことです。
(ANAからのお知らせ:各地域への入国条件変更/インドへ渡航のお客様へ)
https://www.ana.co.jp/ja/jp/topics/notice200501/#immigration
4 日本外務省はインドについて「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」の感染症危険情報を発出しています。インドへの渡航を検討されている邦人の皆様におかれては、インドにおける感染状況を踏まえ、渡航の必要性や時期について慎重に御検討ください。
(新型コロナウイルス感染症に関する皆様へのお願い:当館ホームページ)
https://www.in.emb-japan.go.jp/PDF/20200929_Coronavirus_j.pdf
また、以下のインド内務省入国管理局ホームページに、現在入国できる査証カテゴリーや査証取得手続き、事前の自己申告フォーム等の提出、入国後の自主隔離等、外国人の入国に関するインド政府のガイドラインが掲載されていますので御留意願います。
(インド内務省入国管理局ホームページ該当部分)
https://boi.gov.in/content/advisory-travel-and-visa-restrictions-related-covid-19-1
(各種情報が入手できるサイト)
インド政府広報局ホームページ
https://pib.gov.in/indexd.aspx
インド保健・家庭福祉省公式ツイッター
https://twitter.com/MoHFW_INDIA
インド入国管理局ホームページ
https://boi.gov.in/
在日インド大使館ホームページ
https://www.indembassy-tokyo.gov.in/jp/index_jp.html
外務省海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/
厚生労働省ホームページ:新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
首相官邸ホームページ:新型コロナウイルス感染症に備えて
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
=== 転載終わり ==
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