「スマートフォンを置き、読書をしよう」と呼び掛ける、タミル・ナードゥ州の意外な人
Posted on 11 Jan 2020 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
集中して読書をする時間そのものが、贅沢になことになりつつあるのでしょうか。写真は横浜のみなとみらいから横浜駅に向かう途中で見かけた、大型のTSUTAYAとスターバックスのコラボ店舗です。
特にこれからの時代を生きる人々にとって、スマートフォンはもはやインフラのごとく欠かせない世の中になっているとは言え、ふと気づけば周囲は若者からお年寄りまで、背中を丸めて画面に見入っているのを目にすると、やはり危機感を禁じ得ない。
これから、スマート眼鏡やスマートコンタクトレンズなどのデバイスが実用化されると、わたしたちはますます、現実と仮想との間をシームレスに行き来するようになるのだろうか。
そんなことを考えているのは、何も大都市に暮らすわたしたちだけではない。
タミル・ナードゥ州の小さな町Thoothukudiで床屋を経営する男性はずっと前から、手を打っている。
TN Barber Gives Customers 30% Off If They Read a Book In His Unique Salon
この床屋「Sushil Kumar Beauty Hair」は、散髪やシェービングなど一通りのメニューが充実しているが、ある2点がそこらの店と決定的に違う。
1つ目は、客に店内でのスマートフォンの使用を禁じていること。
どうしても応答が必要な場合は店外に出なければならない。
2つ目は、施術中に読書した客は、30%もの割引を受けることができることだ。
床屋の経営者、ポンマリアッパン(Ponmariappan)さんは店内に書庫を設置し、来店する客には施術中だけでもスマートフォンを手放して読書して欲しいと願って、このような特別割引を導入することにしたという。
この試みはたちまち多くの人々を魅了し、元クリケット選手ハルシャ・ボーグレ(Harsha Bhogle)氏や、〇などの代表作を持つ著作家ラーマクリシュナン(S Ramakrishnan)氏がツイートしたほか、そして床屋が所在するカニモジー(Kanimozhi)県議会議員は50冊の本を寄贈した。
ユニークな試みについて、「The Better India」の取材に対し、ポンマリアッパン氏は次のように説明している。
「教育の行き届いた人間を育むことは、社会にとって最も大切だ。私は企業で働くことが夢だったが、金銭的な問題で学校を卒業できず、それは叶わなかった。床屋を開業して以来、忘れかけていた教育への情熱を、自らの職業と組み合わせることに決めた」
そこで6年ほど前から、書店や廃品回収業者から、不要になった書籍を回収し始めた。
月末には、その月の収入から店に置くための新しい書籍を購入した。
こうして集めた書籍は現在、自伝からフィクション、自己啓発本まで、タミル語と英語に至る900冊に及ぶ。
書庫を置いているもうひとつの理由としては、特に若年世代がスマートフォンに没入し過ぎていることに対する危機感だ。
「割引にすることで、少なくとも店内ではわずか5分でも、本を読んでもらえるようになった。教授でも専門家でもない私だが、来店する人々に本を読ませることができるようになったのはうれしい」
ただし、割引を受けるには条件がある。
読んだ本に関して一言、感想を書かなければならないのだ。
さらにポンマリアッパンさんは、客が店内で確実に「何か」を学ぶために、一歩踏み込んだ努力をしている。
それは、Nellai Kanna氏やBharati Bhaskar氏などの朗読家による朗読テープを再生するという試みだ。
今年、ポンマリアッパンさんは、当面は学生たちが本の貸し借りをできる図書館を整備していくという、さらに壮大な計画を立てている。
本日最も読まれている記事
1 購入後半年で故障したフォッシルのスマートウォッチを巡る、意外な顛末 16 Sep 2019
2 ポルトガル鉄道のインターネット事前切符予約 26 Oct 2016
3 あなたはどのぐらい?インド人の平均スマートフォン使用時間に驚愕 04 Jan 2020
4 2019年末から2020年始まで長々とお邪魔した日本に、しばしさようなら 06 Jan 2020
5 インド人の平均寿命と、女性の伸び率鈍化 01 Oct 2019
About the author
|
|
Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
|
User Comments