全世界の結核患者の3分の1が集中するインドで、人工知能で結核撲滅に挑む企業
Posted on 17 Oct 2019 21:00 in インド科学技術 by Yoko Deshmukh
画像の分析を一番の得意とするAIが最も本領を発揮できるのが、X線画像診断の分野です。The image from The Better India.
世界保健機関(World Health Organization、WHO)の報告によると、2017年現在、結核および薬剤耐性結核(情報・知識 imidas 2018より [既存の治療薬が効かない、薬剤耐性結核菌による感染症。2006年に初めて報告された。結核治療に使う2~4種類の薬のうち、最も効果的なイソニアジドとリファンピシンの2剤が作用しない結核を、多剤耐性結核(MDR-TB)というが、それよりも耐性が進んでおり、化学療法は極めて困難])の患者数は1,000万人、うち3分の1近くにのぼる270万人がインドにいるとされている。
最大の課題が、特に病院や診療所の数が圧倒的に少ない農村部などで、診断が遅れてしまい、その間に結核菌保菌者が家庭や職場などで結核の感染を広げてしまうという点にある。
特に小さな子供にとっては命の脅威になるため、インド政府は2025年までに結核の撲滅を目標に掲げている。
Mumbai Startup’s 2-Minute AI Tech Is Revolutionising How India Tackles TB!
その診断に効果を発揮しているのが人工知能(Artificial Intelligence、AI)技術だ。
ムンバイーの新興企業、「キュアエーアイ(Qure.ai)」では、AIと深層学習技術を放射線画像診断に活かして自動的に解釈できるようにし、すばやく正確な診断を試みる「qXR」と呼ばれるソリューションを開発している。
同社では、X戦画像のアップロード、処理、結果のダウンロードまでわずか2~3分で達成できるクラウドのほか、インターネットの接続が難しい地域ではポケットサイズの機械で瞬時にX線画像を解析できるソリューションを開発している。
その上で、結核が流行していた1950年代の日本で、X線による無作為検査による早期発見を徹底して実施した結果、わずか15年で10分の1に患者数が減少した事例を挙げ、大規模な診断プログラムの展開を提唱している。
しかし大規模診断を行うために必要なX線撮影機はもちろん、撮影したX線画像を読み取れる医師や放射線医師も圧倒的に足りない。
まずX線画像の撮影は、移動式の診療所としての結核診断トラックを、農村部を中心に派遣し、デジタルX線撮影機を用いた診断を試みる。
トラックの中にはX線技師が常駐し、1台で毎日数百人の胸部X線写真撮影を実施する。
撮影したX線写真の読み取りの部分で、キュアエーアイ社のqXRが、これまで人力で1名分あたり3~4週間かけて行われてきた診断から結核菌の陽性・陰性判定までの流れを、数時間ないし1日で完了できるようになっている。
同社ウェブサイトによれば、現場で使用する機械に安価なラズベリーパイ(Raspberry Pi)ベースのデバイス(1台あたりおよそ50ドル)を採用、X線スキャン1回あたりの費用を1ドル未満に抑えている。
キュアエーアイ社は、マックスプランク神経科学研究所(Max Planck Research School for Neuroscience)で博士号を取得した医師プージャ・ラオ(Pooja Rao)氏と、オペレーションズ・リサーチ(日本大百科全書の定義より: [企業経営や社会現象に底流する構造を解明し,そこに広義の法則性を発見して,その法則性にもとづく政策を展開すること])の専門家で機械学習に力を入れて研究を通づけるインド工科大学(IIT)卒のプラシャント・ワリエル(Prashant Warier)氏が共同設立した。
「現在、医療分野の中でも放射線科で取り扱う情報は例外的に、すべてデジタル化されており、AIの組み込みが非常にしやすい分野である。このため、当社では胸部X線画像や頭部CTスキャン画像の処理に注力している。」ワリエル氏。
同社が、インド全土規模の結核診断ソリューションに乗り出したきっかけは、2年ほど前にインド政府保健衛生担当官庁の高官に面会したことだった。
以来、ラジャスターン州、ウッタル・プラデーシュ州、マハーラーシュトラ州などを中心とした州政府やNGO団体の協力を得ながら、精力的に結核診断に力を入れた開発を進めてきたが、その過程でqXRは19種類の症状の診断もできるようになっている。
インターネット接続がない地域や、従来のフィルムによるX線撮影機しかなく画質の低い写真しか撮影できない地域での先端的な研究に取り組み、その過程で得られた知見を、「The Lancet」などの論文審査のある専門医学雑誌に発表している。
また、最新機器を搭載した移動式結核診断トラックがアクセスできない地域については、公立病院などと提携して同社の開発したX線アルゴリズムを導入するよう依頼し、陽性患者の診断が出たら直ちに医師と患者に警告が飛ぶような仕組み作りに取り組んでいる。
インターネット接続のない地域では、記憶容量500GB、メモリ容量32 GB RAM、インテル・コアi7搭載のプロセッサーを搭載した、価格700~800ドル程度の小型のボックス型デバイスを設置、これによりX線画像を、すべてオフラインで、10秒ほどで処理できる。
これまでにqXRは、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)付属マサチューセッツ州総合病院(Massachusetts General Hospital)やデリーのマックス病院(Max Hospital)などの協力も得ながら、AIアルゴリズムとして250万件のX線画像を処理した。
一連の活動に関する発表資料は、こちらから参照できる。
Qure.ai - Publications
AIアルゴリズムが結核(やその他の疾病)の診断に大きな成果を確実に上げつつあるとは言え、ワリエル氏は「完璧ではない」と付け加えている。
「結果が陰性と出ても、自信がない場合には放射線医師にX線画像を見てもらった方がよい」とし、同社ソリューションは結核の撲滅を最小限のコストで達成するための手段のひとつであり、まだその努力は始まったばかりだとしている。
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※なぜかギータ・ゴピーナート氏の記事にアクセスが集まっています。
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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