福岡で鑑賞「クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅」

 

Posted on 25 Jun 2019 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

鑑賞後、原作が読みたくなり、また自分の物語を作ってみたくなる、ダンスシーンが挿入されていてもなおインド映画っぽさは薄めの、小粋な作品でした。



現在、福岡でも「KBCシネマ北天神」で公開中の印仏合作映画、「クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅(原題:The Extraordinary Journey of the Fakir、[Fakir] とはイスラム教やヒンドゥー教の苦行僧や托鉢僧の意味;本作の脚本家も務めたロマン・プエルトラス著(吉田恒雄訳)の原作『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』に由来するものと見られる)」を観てきた。

映画『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』公式サイト
 


 

タミル映画界のスーッパルスター、ラジニカーント(Rajinikanth)さんの娘婿、ダヌーシュ(Danush)さん主演、カナダ出身のケン・スコット(Ken Scott)監督が手掛けるファンタジー作品だ。

ムンバイーのスラム街と見られる場所で優しい母に育てられた青年アジャ(ダヌーシュ)が、ありえない運命に翻弄されつつ、運をつかむために徳を積み、最終的には人生にもっとも大切なものを見つける、というストーリーで、作中で「大切なところはすべて本当の話だ」とあるように、この作品をどう観るのか、物語の落としどころは観客に委ねられている。

貧しい家庭という設定で、友達(いとこ)同士とか悪態とかはヒンディー語なのに、親子の会話が英語だったり、偽の100ユーロしか所持金がないのに観光客としてフランスに入国できたり(パスポートはともかく、シェンゲンビザはどうやって取ったのかな)、スペインとイギリスとの間であんな壮大な移民や難民の押し付け合いがあったり、今や無政府地帯のリビアが割とピースフルな印象に描かれていたりと、「どこまでがアジャの作り話でどこからが体験談(も厳密にはフィクションだけど)なの」とクエスチョンマークが次々と繰り出され、それこそがこの「奇想天外な物語」を鑑賞する上でのキモだろう。

しかし主演のダヌーシュさんをはじめ、キャストがみんな愛すべき、いい味を出していたので、そんな細かいことはいったん脇に置いて、物語の世界にどっぷりと浸かることができたし、むしろ原作をじっくり読んでみたくなった。
また大志を抱く一インド人青年から見たヨーロッパ事情、そして翻ってのインド事情が、淡々と、しかしコンパクトにまとまっていて、俯瞰できるようになっていた。

「旅」とタイトルについているからには、アジャにはもうちょっと旅そのものを楽しんでもらいたかったかな。
またわたしは、大女優のネリーがイタリア・ローマの一大観光地であるトレビの泉で、アジャにずっと忘れられない愛する人(俳優みたいな渋い容姿の原作者、プエルトラス氏その人がカメオ出演)の話をしている最中の日本語字幕の一部に、誤訳ではないかなと思われる箇所を見つけた。

なお、ソマリア人難民ウィラージ役に見覚えがあるなと思ったら、2013年のトム・ハンクス(Tom Hanks)さん主演作、「キャプテン・フィリップス」で海賊役をしていたソマリア出身俳優、バーカッド・アプディ(Barkhad Abdi)さんだった。

この映画は鑑賞後、ひとりでお気に入りのカフェやバーに立ち寄って、好きな飲み物をすすりながら、人生とは、世界とは、貧富とは自分にとってなんだろう、そして自分はどうありたいのだろうとゆったりとした気持ちで自問して、そして自分でもちょっとした物語を作ってみたくなるような、そんな作品だった。
 


パンフレットは850円。


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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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