昨年のヒンドゥー新年グディ・パドワ(Gudi Padwa)祭りの夜に、前触れもなく急な心臓発作で亡くなった、義妹夫の一周忌のため、マハーラーシュトラ州内陸部を訪れていた。
優しかったRさん。
何も分からずに移住した当初から、わたしにとっては頼もしくて大好きな、「インドの兄」だった。
大切な人を突然失ったわたしたちの心の痛みは、そんなに簡単に癒えるものではないけれど、少しずつ前に向かって歩いていこうとしているところだ。
4月上旬、マハーラーシュトラ州は夏に入ったばかり。
プネーでも連日40℃超えの「猛暑」、否「酷暑」だと騒いでいるところなのに、鉄板のように熱せられたデカン高原の中でも、標高の比較的低い盆地状の中心地にあり熱の逃げ場がないアコラは、まるでフライパンの上か「地獄の1丁目」と表現するか、「業火の激暑」とでも造語したくなるような気温だった。
とにかく熱が夜になってもまったく下がらない。
プネーの場合、現在は日中はうだるような暑さになっても、日が沈むと気温の低下を実感でき、朝になればすっかり涼しく25℃前後に下がってくる。
空気が比較的乾燥しているため、ここまで気温が下がれば、かなり快適に感じる。
一方のアコラは、日中の気温は45℃くらいまで上がり、夜間でも35~38℃くらいをキープ、つまり常に人間の体温以上を保っている。
このため、自分や他人の身体を触るだけで、ひんやりと感じるほどだ。
しかもコンクリート製の建物内には熱がこもり、夜間は寝苦しさと猛烈な喉の渇きに、何度も目が覚めた。
常に水分を摂っているはずなのに、喉は渇き続け、しかも空気が異様に乾燥しているため汗も出ず、尿すらほとんど出ない。
家の中にいるだけで熱射病の初期症状のような頭痛に悩まされ続けていた。
ここまでの暑さは、到底「暑い」という言葉では表現しきれない苦しみだ。
それなのに、ほとんどの家にエアコンというものが設置されていない。
代わって稼働しているのが「クーラー(Cooler)」と呼ばれる巨大な水冷式送風機だ。
(ヒンディー語で何というか調べてみたら適当な単語がなく、「Pani wala pankha」か、とかいう冗談を親戚と交わしていた)
※中に藁が仕込んであり、ここに水を吸わせておき、送風機を稼働させると
水分を含む空気が送り出されてきて、気化熱で温度を冷やす原始的な仕組みの空冷機。
(Source)
空気が極度に乾燥しているため、気化熱だけでも室内がけっこう冷えるのである。
ただし今度は湿気がこもるので、電化製品などがダメになってしまわないかどうかは心配だ。
この地方周辺(Shegaon、Chikhli、Buldhanaなど)は信じられないことに、英領時代は鬱蒼とした木々が繁る広大な森林があり、トラなどの野生動物もたくさん生息していたことから、夏の避暑地とされていたこともあったという。
※Chikhliの標高は周辺よりも高く、およそ600メートル
近年は森林の大規模な伐採と道路の舗装に加え、建物のコンクリート化により屋内の通気性悪化と吸収した熱が逃げない構造になっていることも、人々が激烈な暑さに悩まされている原因と考えられる。
プネーに戻ってみると、結局この街の暑さがどれだけマシかを痛感することになった。
テレビニュースでは、ある地方ではすでに水が枯渇し、住民たちがわずかばかり残った川の水を求め、バケツを持って毎日炎天下を往復していることを報じており、想像を絶する過酷な夏の到来を、痛みとともに受け止めている。
※夕涼みを兼ねて親戚の乗る予定の列車の運行情報を確かめにアコラ駅まで散歩。
駅前の道路では真ん中で大の字になって寝ている人がいて思わす声を上げた。
しかし警察官を含めて皆が無視。
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