ケーララ州に、完全ペイフォワード型の飲食施設が開業

 

Posted on 14 Mar 2018 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

食事は大勢で食べた方が断然おいしいのは、分かち合うことでしか生き残れないことを、わたしたちが本能で知っているからかもしれません。



数日前、近所のショッピングモールにあるスターバックス・コーヒーで注文していたところ、それぞれ1人ずつ乳幼児を抱っこした2人の母親が店内に入ってきて、ショーケースを眺めていた。
サリー姿の2人とも引き締まった体型で姿勢がよく、堂々とした立ち姿で、ベイビーたちもかわいかったのだが、いわゆる「モールずれしていない」、一目で労働者であることが分かるいでたちだったため、スタバに入ってくるお客としては珍しいな、という関心もあって、見るともなく見ていた。

そのうちに店員さんのひとりがヒンディー語で「何をお求めですか?」と尋ねると、母親のひとりが即座にチキンや野菜が挟まったロールを指さし、「このサンドイッチ」と言った。
もうひとりの母親も呼応して、「わたしもサンドイッチひとつ欲しいわ」と言った。

スタバのサンドイッチはインドにおいても、サイズは小さめなくせに高額だ。
わたしは偏見で失礼なのだが、てっきり2人はここのモールの工事関係者で、何らかのミールクーポンが配布されており、好きなものを無料で食べられるような仕組みになっているのだろうな、と少し微笑ましく思いながら、自分の勘定を済ませた。
すると対応していた店員さんが、女性たちにそのサンドイッチの値段を言った。
女性のひとりが「ひとつで?」と尋ねると、店員さんは「そうです。ひとつこの値段です」と相槌を打った。
街中で売られているワダパオの20倍くらいの金額を聞いて、女性たちは何も言わず出て行った。

店員さんたちは彼女たちが去ると、「なぜああいう人たちをモールに入らせるのかしら」と笑っていたが、わたしは「こういう時こそさっと代理で支払っちゃえばよかったのかな」と、自分の機転の利かなさと勇気のなさに、複雑な心境になってしまった。
普段から、SNS上で世界中に広がる「Food for Free」というプロジェクトの活動を見ていたからなおさらだ。

そんなことを思い出して悶々としていた本日、まさにそのような行動を現実のレストランと言う形で実践しているケーララ州の試みを、「The Better India」が紹介していた。

This Kerala Hotel Lets You “Eat as Much as You Want, Give as Much as You Can”! - The Better India

ケーララ州に、食事代が支払えないという理由で門前払いをさせないレストラン、その名も「みんなのレストラン(マラヤーラム語:Janakeeya Bhakshanasala)」がオープンした。
このレストランには会計カウンターがなく、訪れた客は好きなだけ食べて、自分の決めた金額を支払うことができる。
もちろん、支払うべきお金がなくても食事できる。

同州トーマス・アイザック(Thomas Isaac)財務大臣が提唱する「飢餓ゼロ」プロジェクトの一環として開業したもので、つまり公営の施設だ。
インド共産党(マルクス主義政党)直営の緩和ケア施設運営組織、「Snehajalakam」が運営し、ケーララ州金融公社(Kerala State Financial Enterprises:KSFE)のCSRイニシアチブとして開業資金112.5万ルピーが拠出された。

レストランは2階建てで、1日最大2,000人近くに食事を提供できる。
施設内には生ゴミや水を処理する設備や、料理を2階に上げるエレベーターも備えている。

運営資金は、近隣住民によるクラウドソーシング型の寄付が支えている。
2月4日時点で1,576名の寄付者が集まっているという。

さらにレストランには2.5エーカーの有機農場を併設、必要な材料をまかなえるようになっているほか、近隣の人たちも採れたての新鮮な野菜を購入することができる。

ケーララ州では今年に入ってこのレストランの他、コーチでもフードクーポン配布プロジェクトを展開している。

Numma Oonu: For the hungry in Kochi, food coupons on offer from February 1 - New Indian Express

21世紀の地球上は、テクノロジーがかつてない速度で目覚ましい発展を遂げる一方で、70億もの増殖し過ぎた人類が消費をむさぼり、限りある資源を食い尽くそうとしている。
富めるものと貧しい者との格差は開くばかりだ。

日々を生きるための衛生的な水と食事、そして未来を切り開くための読み書き能力をつけるための教育ぐらいは、全世界の持てる者たちが少しずつお金を出し合って、全世界の持てない者たちを支えられるのではないか。
とっさに行動できなかった自分に深い自戒を込めて。

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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