この数日、特にムンバイーやプネーのお茶の間を騒がせている話題の人と言えば、ムンバイのFMラジオ局「RED FM」の人気ラジオジョッキー、マリシュカ(Malishka)さんだ。
まずは、この動画を観て欲しい。
古いマラーティー語の歌謡曲「Sonu Tujha Majhyavar Bharosa Nay Kay(君 [Sonu] は僕のこと、信じてくれやしないのかい)」をパロディしたとされているラップソングで、内容もマラーティー語だが、恐らく大体は理解できるのではないだろうか。
中心となって表情豊かに歌っている、愛らしい顔立ちをしたマリシュカさんは、7月10日に公開したこの動画の中で、ムンバイーの深刻な交通渋滞、特に雨季になる度に冠水する劣悪な道路事情と、それに何らの対策も講じない行政(Brihanmumbai Municipal Corporation:BMC)の怠慢を、ラップ調の軽快なリズムに乗せて批判している。
これに対し、「泣く子も黙る」極右政党で、現在ムンバイーの与党でもある「シヴ・セーナー(Shiv Sena)」が、「わが行政府を笑い者にするとはけしからん!」と激怒、マリシュカさんのバンドラ(Bandra)にある家宅を訪問し、「蚊の繁殖を放置している」と言いがかりをつけ、同居している母親ともども高額な罰金をともなう行政処分をちらつかせたるなどの圧力をかけた。
Shiv Sena corporators seek action against RJ Malishka for poking fun at BMC - Indian Express
FM RJ Malishka Faces BMC’s Ire After Her Sonu Song Parody Video ‘Mumbai Tula BMC Var Bharosa Nai Kai’ Goes Viral - India.com
RJ Malishka Mocked Mumbai Civic Body. Cut To Notice For Mosquitoes - NDTV
一連の騒動については、以下の動画が英語で概説しているので、ぜひご覧いただきたい。
Watch: RJ Malishka, Red FM hit back at Yuva Sena, BMC with new video, tweet - First Post
シヴ・セーナー支持者とおぼしき人たち(なぜか全員オバさん)が、よりによって同じラップのリズムに乗せてマリシュカさんに応酬しているのが滑稽である。
そしてさきほど、夕食時にマラーティー語報道チャンネル「Zee Marathi」をつけていたら、上の動画の最後でもちらっと紹介されていた、マリシュカさんを支持し、シヴ・セーナーを真っ向から批判する、新しいラップソングも登場していた。
全体的に図体のデカい若者たちがゴムボートに乗り込み、ムンバイー名物の水たまりに「浮かんで」ラップする姿がシュールである。
実際、「けしからん!!」と大人げなく騒いでいるのはシヴ・セーナーとその一味だけのようだ。
「ムンバイカー(ムンバイ市民)の心の声を代弁し、シヴ・セーナーに正面から立ち向かう、勇気ある女性だ」と称えるアーム・アドミ党(Aam Aadmi Party:一般市民のための党)をはじめとするムンバイー議会の野党、社会活動家ら、一般市民、メディアを含めた世論は、マリシュカさんを支持し、シヴ・セーナーを非難する、という構造になってきている。
マリシュカさんに触発されて、インド社会の様々な不満を表現する「ソヌ・ソング(Sonu Song:君への歌)」の替え歌が次々と誕生しているのも興味深い。
Marathi Folk Song ‘Sonu Tuza Mazyavar Bharosa Nahi Kay’ is the New Social Media Trend! Watch Best Versions of Viral Sonu Song - India.com
個人的に気に入っているのは、やはり久しぶりにお目にかかった「シックス・パック・バンド」たちのバージョンだ。
相変わらず超カワイイではないか。
マリシュカさんはシヴ・セーナーの脅しにもまったくめげず、「あたしはラッパーよ。あっ、それからブリーダー(繁殖家、BMCから蚊の繁殖をでっち上げられていることを受けて)でもあるわね。(ソヌ・ソングの替え歌は)あと6バージョンぐらい用意していてよ」との挑戦状を叩きつけている。
RJ Malishka hits back at BMC, says she has six more songs ready - Hindustan Times
時に、デマ情報を堂々と流したり(本日付のヒンドゥスタン・タイムズ [Hindustan Times] 電子版が、亡くなった米ロックバンド「リンキン・パーク」のリードボーカル、チェスター・ベニントンさんの妻のものとされるツイッター・アカウントから発信された、ハッカーによるものと見られる一連のツイートを、内容も確かめずに垂れ流していた)、記事の品質に疑問を禁じえないことも度々で、インドのメディアに対する信用は、わたしの中でガタ落ちで、失望することも多々あるのだが、脅されながらも、こうして自由な表現ができ、それを支持する人もちゃんといる健全な社会であることは、世界最大の民主主義国家としてのプライドが輝く瞬間でもあると感じた。