女児の出産費用を無料とすることで、世の中にメッセージを発信し続けるプネの産婦人科医
Posted on 24 Mar 2016 23:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
この方のお話は、かなり前にも新聞で読んだことがあった気がしたのですが、実際にはほんの4年ほど前からの試みだそうです。医師になることだけでも大変な努力と苦労があるのに、無報酬に踏み切ることは、相当の勇気に違いなく、社会を変えたいという気持ちの強さを表しています。
*Distributing chocolate cakes to the family of a newborn girl.
Photo from BBC
BBCが、女児の出産を無料で引き受け続けているプネの産婦人科医について、シリーズ記事「Unsung Indians」の中で紹介した。
Ganesh Rakh: The doctor who delivers India's girls for free
この国には依然として、旧態の伝統に囚われ、都市部までも含めて女児の誕生を喜ばない一定の人々がおり、お腹の中の胎児が女の子だと分かると中絶してしまうケースも後を絶たない。
このため法律上、出産前に妊婦やその家族が、胎児の性別を知ることは禁止されている。
実際には1961年の7歳未満の幼児数が男児1,000人に対し女児976人とされていたのが、2011年に発表された最新の国勢調査の数字では同914人と悪化、当時のマンモハン・スィン(Manmohan Singh)首相が「国家の恥」、「大量虐殺」と表現するほどの醜悪な女児堕胎の実態を浮き彫りにした。
この事実に強い危機感を抱いた医師、ガネーシュ・ラーク(Ganesh Rakh)さんは、小さな努力の一歩として、自身が経営する病院で生まれる女児について、その出産費用を無料にしている。
信じられないようなことだが、ラーク医師によると、人生で最も喜ばしい瞬間であるはずの出産直後、生まれた赤ん坊が女児だと知ると、深く失望し、泣き出す人もいたのだとか。
「男児を異様なまでに切望する因習に根深くはまり込んでいる人たちの中には、女児の誕生に対し、まるで死亡宣告のような反応を示す人がいる。また男児が確実に生まれるようにと、怪しげな祈祷師にお布施を払ったり、母親の鼻孔から薬を入れたりといった、まったく無意味な行動を取っている人もおり、呆れを通り越して強い危機感を感じた」
そこでラーク医師はいたたまれず、2012年1月に「女の子を救おうキャンペーン(मुलगी वाचवा अभियान)」を立ち上げ、自身の経営する病院で誕生する女児は出産費用を無料とするほか、病院で盛大にお祝いすることを始めた。
それから4年、この病院を誕生の地として舞い降りた464名の女の赤ちゃんを、病院では「天使」と呼び、ひとりひとりにキャンドルを灯した「Happy Birthday Dear Angel」と書かれたチョコレートケーキを贈って祝福することを続けている。
プネから50キロ離れた村から、出産のためにやってきた夫婦は、無事に女の子が生まれると、ラーク医師をはじめ病院スタッフ全員から大歓迎され、戸惑いつつも「お金がないからここへ来て出産することに決めたが、まさかこんなにも祝ってもらえるなんて」と感動する。
実は3人兄弟の長男であるラーク医師自身も、父は穀物の運搬人、母は一般家庭で食器洗いに従事する、非常に貧しい家庭背景で育ち、もともとレスラーになることが夢だったという。
「でも母が、『レスラーなんて食うだけの穀潰しだ』なんて言って反対するものだから、もうひとつの夢であった医師になることを目指して、必死に勉学に励みました」
努力が実って医師となり、開業まで叶えたラーク氏だが、「女児の出産費用は無料とする」という決断には、妻を含めて家族は口々に、収入面での不安を訴えた。
「私たちは決して裕福ではない。だから報酬がなければどのように生計を立てていくのかを心配していました」妻は回想する。
しかし父親だけは、息子の決断を全面的に支持、「父は、『おまえの信じるようにやりなさい。生活に困ったら、わしがまた運搬の仕事をして稼ぐさ』と言ってくれました」ラーク医師。
今日、その無私の努力が実を結び始めている。
インド政府の閣僚や政府の高官はもちろん、ボリウッドの往年スター、アミターブ・バッチャン(Amitabh Bachchan)までもが、「本物の英雄」としてラーク医師を称え、その活動を支援している。
「私が始めたことは、ごく小さい努力に過ぎなかったので、これほどの反響を呼ぶとは想像もしていませんでした。それが世界というものなのでしょう」
ラーク医師は現在、インド全土の医師らにも同じく、女児の出産費用を無料にする支援を呼び掛けている。
プネの路上で時々、女児の大切さを訴える行進をするラーク医師は、「人々の意識を変えたい。誰もが女児の誕生を喜ぶ世の中になったら、その時はちゃんと報酬をもらいますよ」と話す。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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