中印国境で、ちょっと変わった新年のあいさつ

 

Posted on 03 Jan 2016 12:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

敏感な地域ならではの、新年の挨拶です。



*The photo from NDTV, where the article is referenced from.

新年早々、心温まる話題が国境地帯から届いた

元日、アッサム州グワハティに基地を置くインド陸軍と、中国の人民解放軍が毎年合同で開催している「国境職員会議(Border Personnel Meeting:BPM)」の場において、アルナーチャル・プラデーシュ州と国境を挟んでお隣にあたる中国は成都省の村人たちが、人民解放軍兵士たちと一緒にボリウッドの人気ナンバー、「Jai Ho(2008年のアカデミー賞受賞作品「スラムドッグ$ミリオネア」のメインテーマで、A.R.ラフマーン作)」に合わせたダンスを披露した。

ところでこの「スラムドッグ$ミリオネア」という作品、わたしはそのテーマソングも含めて感覚的にあまり好きにはなれなかったが、周囲のインド人にもウケが今ひとつである。
自己分析も含めて、その理由を考えてみると、スラム街の生活をえぐり出すような描写に、誇りを傷つけられたり、気分を害されてしまうということは、あるかもしれない。

たとえば、日本のホームレスと社会との関わりをテーマとした、ハリウッド発のエンターテインメント映画があったとして、多くの日本人はそれを単純に、おもしろい作品として受け入れると同時に、知らない世界を学んだような満足感を得ることができるかもしれない。
しかしインドでは、スラム街での生活はすぐ隣近所で繰り広げられている現実であり、かつ他人事として歩くには、あまりにも規模が大きく、目立つ。
そこへ、ハリウッドの監督による見事な演出と脚色によって、スラム世界が娯楽性を帯びた作品として描かれると、まるで自分たちが生きている世界そのものを笑われているような気持ちになってしまうのではないか。
「スラムに対する当事者意識」を、インドに住んでいる人たちは、抱きやすい。
悲惨な「現実」が浮き彫りとなった社会に暮らすわたしたちにとって、そのものずばりを描いた映画は、重すぎるということなのだろうか。

海外の監督が描くインドという点では、わたしはむしろ、友人が絶賛していた「Exotic Marigold Hotel」、「The Second Best Exotic Marigold Hotel」をぜひいつか、鑑賞してみたいと思ってしまう。

話が大きくそれてしまったが、さて、このダンスは、どうやらサプライズの余興だったようで、インド陸軍防衛担当スポークスパーソンのスニート・ニュートン中佐(Lieutenant Suneet Newton)は「とてもきらびやかで目を見張るように美しかった」との、感嘆の言葉で評している。
インド陸軍騎兵隊は、パイプ演奏やジャズバンドによるパフォーマンスで「応戦」した。

元日恒例の職員会議(BPM)は今年、冷え込みの厳しいチベット文化圏にあたる成都省察隅(Zayu)郡に所在する駐屯地で開催された。
アルナーチャル・プラデーシュ州は、中国と距離にして1030キロもの国境線を接しており、かつて中国は同州を含む周辺地域の領有を主張し、1962年には大規模な紛争が勃発したほか、人民解放軍による侵入事例がたびたび報告されている。
現在は、「実効支配線(Line of Actual Control:LAC)」、通称「マクマホン・ライン(McMahon Line)」と呼ばれる架空国境線が、インドと中国を分離していることになっている。

BPMは同じく元日、アルナーチャル・プラデーシュ州国境地帯インド側領内にあるタワン(Tawang)県バムラ(Bumla)でも開催されている。
インドは今年中にも、中印国境地帯への警備部隊を倍増する計画という。

こうした政治的経緯があるためか、インドでは気の毒ながら中国人は、あまり好かれていないようだ。
また、特に知識や教養の乏しい層の人たちが、中国人系の顔立ちであるインド北東部出身者を差別している事例もたびたび報じられているが、これが中印国境紛争に端を発するものであるかは、わたしには分からない。

ただ、わたしもプネの街を歩いていて、時々「中国人か」と聞かれることがあるが、つい慌てて「いや、日本人だ」と答えてしまう。
日本人はまだ、インドでは尊敬され、好かれているような印象を受けるため、そうしたイメージを崩さないよう心がけて行動をしたい。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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