忘れたくても、忘れられない、それぞれのインド

 

Posted on 25 Mar 2018 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

ひとりの人間はちっぽけな存在で、その命は短いものです。その時間を最大限に使って、すごいことをできてしまうのもまた人間です。



※これもインド。
数日前、会員になっているホテルの無料券を利用して食事したイタリアンで見かけた石窯。
 

アンジャリさんが今朝、アップされていたコラムを読んだ。

未知との遭遇、なう - 人生に必要な知恵はすべてインドから学んだ(八尋企画ブログ)

現在は東京に住み、「八尋企画」を経営するかたわら、インド映画情報を中心に楽しい情報が盛りだくさんのウェブサイト、「マサラプレス」を運営されているアンジャリさん。
インドに通って20年以上、各方面で多数の友人知人がいらっしゃり、お仕事を作ってはドォ~ンとインドに飛び込んでいらっしゃる。
エネルギーと情熱の塊で、わたしにとっては、もうひとりの「先生」だ。

そんな経験や実績の豊富なアンジャリさんを通して、様々に表現されるインドは、プネーに「ただ住んでるだけ」で15年が経過しようとしているわたしが言うのもおこがましいことなのだが、盛っているようなところがひとつもなく、ありのままで、共感できる。

特に本日アンジャリさんが更新されたブログ記事で印象に残ったのは、後半の方の「あなたを忘れていない」という段落だ。

以下、特にものすごく共感できた箇所を引用 ~~

「都会の中上流のインド人のなかには、田舎から出てきた使用人を同じ人間扱いしない人や、道端の物乞いを空気のようにスルーする人もいる。

カーストが云々という以前に、自分たちが生きる世界の外は最初から存在しない、そんなふうに振舞っている人は、本当に多い。

貧富の差や、身分差別といった問題を毎日考えるのはとてもしんどいことで、実は私もどちらかと言えばそちらのグループの端っこに入る。むやみやたらと疲れるから、大半の時間は、できれば自分が心地よくいられる世界で過ごしたい。」

「自分たちは忘れられている。

そう感じるときの人の心の痛み、悲しみ、諦めを、私は決して忘れたくない。」

~~引用終わり。

普段、ぼんやりと考え続けていたことを、見事に表現してあった。
都市のきらびやかな生活、グラマラスな海外出張、そうしたことに耽溺しつつも、足元のことに想像力を働かせて考えることのできる人は意外に多くない。

今年の1月、写真家の三井昌志さんがバイク一周旅の途上でプネーを通過された折に、当地の一般的には中流に属するとみなされるインド人たち若干名と交流していただいた。
その時に、三井さんは自らが撮影した写真を彼らに見せながら、撮影手法や編集手法について簡単なレクチャーをしておられた。
しかし彼らの目は、インドに生まれ育ちながら見たことも聞いたこともないという農村に住む、名もなき人たちに宿る輝きに釘付けになっていた。

人物を被写体にすることは、その人との一瞬の対峙、そして一瞬とはいえ相手の人生に立ち入ることを意味する。
毎回とてつもないエネルギーの交換があることだろう。
そのような途方もない作業を繰り返しながら、広大なインドをバイクにまたがり旅をしながら写真を撮り続けている三井さんのような方がいなければ、わたしたちは農村に住む人たちのことを直接知り得なかった。
そして悲しいことではあるが、こうした表現や努力は、三井さんのような「よそ者」でなければおそらく成り立たないのだろう。

マハーラーシュトリアンと結婚し、中堅都市プネーに住んで15年にもなるが、わたしが見ている世界は、インドのほんの片隅に過ぎない。
実のところ、インドという国に全身で飛び込み切れず、なじみ切れず、個人的な興味関心もなかなか湧かず、常に何らかの疑念を持って日常の諸事を見ており、できるだけ安全な距離を保って過ごしてきた。
特にフリーランスとなってからは行動範囲も狭くなり、さらに見るもの感じることには、所属する家族のフィルターもかかっていることだろう。

しかし、本日のアンジャリさんの記事を読み、また近年「インドが大好き」とおっしゃる日本人や外国人の方々と出会う機会が増えるにつれて、「外国から来た人間」という特権をもう少し活かしてもいいのではないかと考えるようになってきた。
この際、いったん心を「ゼロ」にリセットして、自分なりに純粋な目で、自分の好きな形でインドに迫ってみることで生まれる、新しい楽しみもあるのではないかなと、とても勇気づけられた。





    



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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