それぞれの「居場所」で自分らしく生きることに遠慮はいらない

 

Posted on 16 Jan 2018 23:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

たくさんの疑問が去来しつつも、それでも筆者の人柄か、精力的なインタビューによってカバーされた取材対象者たちの人生は、どれも色とりどりで、魅力的に思えました。



※アソーク駅付近(2017年5月)
 

日本に滞在中、水谷竹秀さんの著書、「だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人 (集英社学芸単行本) Kindle版」を読んだ。

たまたま、あるウェブ記事で水谷さんのインタビュー記事を目にしたことで、この書籍の存在を知った。
記事では、ゴーゴーボーイとの間に子供まで作ってしまった女性の話や、バンコクで発行されている「アーチプラス」というフリーペーパー編集長の話として、ゴーゴーボーイにはまる日本人女性の多さと、そうした人たちに対して向けられる謂われなきタブー視などに触れてあった。

バンコクは近年、訪れる機会が多く、この国に在住する日本人の数が非常に多いこと(水谷さんのご著書によれば2015年10月現在6万7,400人で、アメリカ、中国、オーストラリア、イギリスに次いで5番目の規模)、そのほとんどがバンコクに集中していることも知っていた。

そんな街に暮らす日本人のこと、アソークやスクンビット通りなど、よく通る場所の地名が頻出して情景が想像できて楽しげなこと、そして何よりフィリピンに長期居住しながら、やはり海外生活を送る日本人を意欲的に取材・執筆活動をされている水谷さんご自身に関心を抱き、Kindle版をダウンロードした。

中でも、コールセンターで働く日本人たちに対して、バンコクの在留邦人は、同じ異郷で働く同胞としては見ておらず、むしろある種偏見の目を向けているらしいということは印象に残った。
そのため、駐在員ならいざ知らず、現地採用者を含めた他の業種の在留邦人とも、交流がほとんどないようだ。

わたしも長くプネーに住んでいるが、インドの中堅都市の、ただでさえ狭い世間の中、一層小さく、その中にあっても大なり小なりヒエラルキーがあることが漏れ聞こえてくる在留邦人社会からは、敢えて遠ざかっている。

しかし先日、ふと気づいた。
忘年会など、いわゆる「日本人会」が主催する、主に企業駐在員向けのイベントが定期的に開催されているはずなのだが、近年わたしには声もかからなくなっている。
わたしの場合は1年のうちにプネーを不在にする期間も長く、さらに自分から距離を置いているからかもしれないが、世界中どこからでもチェックできるメールにすら、かつてはあった案内が流れてこなくなった。
これっていよいよ「仲間はずれ」ってやつなのか?と薄々感じ始めている。
もともと仲間に入ろうとも思っていないので、気にしていないが。

だから、タイ語も英語もできなくても、日本語スキルだけで働ける、安月給のコールセンター従業員を、蔑みの色眼鏡で見るタイ在留邦人社会の存在があることに、プネー在留邦人社会から外されているのかも、という自分の直感を裏付けられたような気がして、ほんのちょっぴり衝撃だった。

本書を読み、バンコクのコールセンター従業員たちの抱える様々な人生模様を知った後でもなお、なぜ彼らが彼らの人生に無関係であるはずの、別の在留邦人たちから、冷たい目で見られなければならないのか、という本質的な疑問は拭えないままだ。

例えば、本書では「困窮邦人」と呼ばれる、コールセンターでも働けなくなってしまい、そのままだと路頭に迷うことになりそうな日本人も、極端な例として紹介している。
しかし一般的なコールセンター従業員の給与水準は3万バーツ前後と、特別に好待遇ではないものの、暮らしていくには困らないであろうことは、わたしもかつて長いこと、インドで現地採用従業員として安月給で働いてきた経験上、体感的に分かる。

一族の財産を食いつぶしているとか、国の税金を無駄遣いしているとか、そうした状況ではなく、自らが選んだ仕事で、自らが働いたお金で自活し、それぞれの思う人生を歩んでいる人たちに対してすら、同じ日本から来た在留邦人同士、仲間とみなさず、偏見の目をしか向けられない態度の寂しさ、悲しさのほうが際立った。

筆者も含めて、日本を離れて海外に居場所を見い出した人たち。
わたしも、そんな日本人のひとりに入ると思う。
誰もが、会社の命令や期待を背負ったり、高尚な目的を抱いたりして海外に出てくるわけではないし、とんとん拍子の人生を歩めているわけではない。

挫折や失敗を経験し、それでも生き抜こうとしている。
水谷さんの意欲的な取材を通じて明らかになった、そんな人たちがたくさん集まり、思い思いの道を歩んでいるように見える、バンコクのコールセンターというカラフルな職場が、わたしの目にはむしろ魅力的に映った。

なお、水谷さんはほかにも興味深いテーマで執筆をされているので、いろいろと読んでみたくなった。





        



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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