日本でも4月に公開、映画「Lion」は、こんな時代だからこそ必見

 

Posted on 05 Mar 2017 23:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh

こんど原作をじっくり読みたいと思いますが、この圧倒的な作品は、インドの抱える大きく深い闇のほんの一部でしかないという点にも、改めて途方に暮れさせられます。



公式トレイラーより
 

昨日、たまたま早朝4時起きで仕事をしていた時に、音量を絞ってかけていたBBC放送で今年のオスカー賞に出席した「ムンバイの愛らしい俳優」を紹介していた。

Lion movie: How Sunny Pawar stole Hollywood's heart (BBC)

昨年末に全米を皮切りに公開された映画「Lion」の主演俳優のひとり、サニー・パワルくんだ。
いまはムンバイの自宅に帰っており、「(オスカーでは)たくさんの人に声かけられたけど、誰が誰だかまったく分かんなかったよ」というサニーくん。
お父さんは家事手伝い業の仕事を辞めて、「ステージパパ」に専念するそうだ。

実家の母によれば、日本では4月7日から公開予定とのこと。
プネではもう公開されていたので、シッダールタを誘って近所の映画館「Carnival(旧BIG Cinemas Gold)」に観に行った。

実話に基づくストーリーなので、あらすじはご存知の方も多いことだろう。
気になる方は、2012年にアップされたこちらの記事をぜひご覧いただきたい。

その距離なんと1万キロ! 25年前に行方不明になった男性がGoogle Earthを使って故郷に帰る (Rocket News)

同じくインドの抱える闇にインスピレーションを得て、スラムの子供を子役として起用し2009年のアカデミー賞を総なめした「Slumdog Millionaire」(「Lion」でも同じデヴ・パテル[Dev Patel]が成長後の主人公を演じたが、2008年当時よりぐっと男らしくセクシーな魅力にあふれていてこちらも見物)は、せっかくのA.R.ラフマーンさん音楽でも、その良さがまったく分からなかった。

しかし「Lion」では別次元の心の揺さぶりを感じ、観てよかったし、何度でも観たい。
途中、ラフマーンさんの名作音楽がちょこっと流れたりもした。
作品の前半部分はヒンディ語とベンガル語、後半部分はほぼ英語のみとなってくる。

インドと縁もゆかりもない先進国の住人にとっては、この映画で描かれるインドは遠い遠い別世界のことで、ただ驚愕するばかりだろうが、すっかり「こちら側」の人間になってしまったわたしにとって、生き別れとなった家族たちや、かれらの住む町(年に一度は必ず訪れるシッダールタの故郷、アコラ(Akola)からも結構近い)も含めて、全編を通じてインド側の日常描写にはかなり「来る」。

みすぼらしい外観の人たちを見て見ぬふりし、時にはうるさそうに追い払い、それが幼い子供であっても特別な注意を向けることなく、人間扱いしない、麻痺した社会。
遭遇する大人たちに都度、運命を翻弄されるしかない、あまりに無力で小さなサルー(Saroo)の目線から描いた、この国の社会、大人たち、環境に対して、わたしも責任の一端を担っていること、そのことをずしりと重く受け止めた。

また成長して大人になったサルーが養母スー(Sue)に、「あなたたち(夫婦)に自分の子がいさえすれば、僕たちなんかを養子に迎えることはなかったのではないか」という言葉をぶつけた、その時、スーが返した言葉の中に、まさに十数年に渡るインド人生で、わたしがずっと考え続けてきたことが凝縮されていた。
オスカー賞の報道を受けてか、観客もそこそこ入っていたが、みな「しん」として真面目に内容に集中しており、騒いだりする人など誰ひとりいなかったのも印象的だった。

この子の出身地である小さな町(ネタバレになるので町名は伏せておく)は、マディヤ・プラデーシュ州カンドワー(खंडवा)県に実在するので、映画のヒットを受けて一大観光地になっちゃったりして。
シッダールタは「惜しいのは、子供のヒンディ語がムンバイ訛りってところかな。カンダワーはマハーラーシュトラ州寄りなのでかなりマラーティー訛りが強いはず」と突っ込みを入れていた。

まったくの余談だが、インドおなじみ「Intermission」が途中で入って作品がブチ切れするのであるが、上映前に購入しておいたポップコーン(まだ容器の7割ぐらい残っている)をむしゃむしゃする我々に、ポップコーン売りのボーイがさらにポップコーンを売りに来たのには笑えた。
サモーサー売りのボーイも来てくれた(が買わなかった)。
どうせならチャーイかコーヒーを売りに来て欲しかったかな。

なお、なぜタイトルが「Lion」なのか、その秘密は作品の最後に分かるだろう。

4月に日本に一時帰国する予定なので、これはもう一度、ぜひ母と一緒に観るつもりだ。


Lion Official Trailer






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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