「Web Summit Lisbon」会場にて
まず、政治に疎いし、地政学にも疎いわたしは、トランプ新大統領がインドにどういった影響を与え得るかを、専門的な観点で語れることはない。
オバマ大統領誕生を伝える歴史的な就任式を、プネの自宅に当時あった、ブラウン管の切れかけたおんぼろのテレビで観てから、もう8年も経ったのかと感慨にふけるくらいだ。
たまたま2009年当時の就任式の様子を映すテレビ画面を撮影した写真が残っていた。
(リンク先は2009年オバマ大統領就任式写真集Google Photos)
もしトランプ氏が移民の入国を制限するということになれば、今後少なくとも4年間は、よりよい賃金を求めてアメリカを目指してきたインド人ソフトウェア技術者や知識系ワーカーが、別の目的地を模索することになるのだろう。
アメリカの次に好適地だったイギリスでも、移民に対する風当たりが強くなりそうだし、日本次第では今こそ、優秀なインド人を誘致する絶好のチャンスが訪れるかもしれない。
また米アップル(Apple)がインドを製造開発拠点にしようと計画している。
インドではアップル製品が関税のせいで高額だったので、これで国産になり価格が正常化されるものと楽しみにしていたが、トランプ氏の主張通りになれば米国政府が介入してくるかもしれない。
でも今さらすべてのアップル製品を米国製にするなんてことは、さすがにやろうとしてもできないだろうけど。
トランプ大統領誕生のニュースが飛び込んできた11月8日、わたしは当時開催中の「Web Summit」というイベントに参加する機会があり、リスボンにいた。
大統領選挙の開票速報を組んでいたポルトガル時間深夜の英BBC放送では、途中までヒラリー氏の揺るぎない優勢を信じて疑わない調子だったのに、気がづいた時にはあっという間にトランプ氏当選確実との報が逆転、驚きの結果を伝えていた。
生放送のコメンテーターとして3名ほどの専門家が画面に映し出されていたが、全員の動揺は解像度の低い安宿のテレビ画面からもありありと感じられた。
翌朝の9日、関心のあるプレゼンテーションを聴くために大会場に向かう途中の展示ホールでも、そしてプレゼンテーションでも、「トランプ大統領誕生」をまるで悪夢が現実となったかのように動揺する人々の姿があり、わたし以外にも終始ラップトップ等を開いて、信じられないとばかりにニュースをチェックしている人が多くいた。
Web Summit Lisbon:トランプ大統領誕生に動揺が隠せない会場、ナスダック市場のオープニング・ベルなど(Posted on 09 Nov 2016)
一国の大統領が誰になるかなど、国民でない人たちにとってはあまり重要なことではなさそうだ。
しかし実際には、依然としてアメリカが世界経済の中心地であること、何より、わたしの職業が日本語と英語とを駆使するものである以上、アメリカは世界最大の英語話者を抱える国であり、顧客企業も多いので、注目せざるを得ない。
もちろんアメリカ以外でも、世界中の情報がリアルタイムに飛び交い、国境を越えた人の往来や仕事のやり取りが活発な現代においては、イギリスの「Brexit」から、シリア情勢も含めて、他国の状況に無関心であるわけにはいかないし、どこかで自分と繋がっていると考える態度が必要だと思う。
この数カ月、トランプ氏の人となりや考えられる政策に関して、専門家らが様々な立場から執筆した記事を、いろいろな媒体で読んだ。
差別的な発言など物議を醸す点が大いにあるが、そんな人物を支持した米国人がかなりの数いたことを、その得票数が物語っている。
日本人が知らない「トランプ支持者」の正体(東洋経済オンライン)
さらにわたしは、威勢のいいことを言っている人ほど心は繊細かも、という観点からトランプ氏を見てしまうところがある。
数日前に日経新聞オンライン版が写真を掲載していた、就任式に臨むためにワシントン国内空港に到着し、機内から出てタラップを降りようとしているトランプ氏の、やや緊張にうなだれたように見える姿を見ると、一層そう感じる。
トランプ米大統領、誕生へ 就任式ライブ (日経リンク)
ともあれ、アメリカの政治に自分が何か影響できるわけはないので、明るい未来を祈りつつ、そこへ向かって自分なりにできる日々の仕事やあれこれを、誠実にこなすしかない。
2017年1月20日、トランプ大統領誕生の瞬間。
(リンク先はGoogle Photos)