インド人移民積極受け入れのドイツでまもなく連邦議会選挙
Posted on 15 Feb 2025 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh
インドで昨年からドイツ語を勉強し始めたことで、驚くほど多くのインド人が高給を得るため、次々にドイツに渡っていることを改めて知りました。
わたしは今、ドイツで数十年にわたり仕事をしてきたフランス人の先生に、ドイツ語を教わっている。
その方がしばしば、ドイツにおける「移民」を巡る諸問題に(思い切り右の立場から)言及されるので、ずっと心に引っかかっている。
そうした中、インド人(移民)としての立場から、ドイツ政府の移民対策について発言する記事を見かけたので、内容を抄訳したい。
German Election, Migration Debate and Indians
ドイツでは2月23日に予定されている選挙で、第21回連邦議会議員が選出される見込みだ。
イデオロギーの異なるさまざまな政党が訴える政治課題の中でも、今回の選挙で中心的な争点となりそうなのが移民問題である。
2000年に当時の社会民主党(SPD)政権が、ITセクターやエンジニアリング分野などにおける人材不足を補うため、インドから技術者を積極的に招へいするグリーンカード制度を導入したところ、これに反発して「Inder versus Kinder(インド人を取るか子供たちを取るか)」という排外的なスローガンを広めた「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭し始めた。
さらにここ数年、国内で起きる事件を機にイスラーム嫌悪の空気が広がっており、その背景には「ロシアによるウクライナ侵攻」および「イスラエルによるパレスチナ侵攻」に対し、相反する政策や姿勢を取る国際情勢も影響している。
反移民感情は主に、戦争から逃れてきたイスラーム地域の避難民をドイツ領土に受け入れたくないという拒絶が出発点となっている。
注目すべきは、こうした反移民感情の高まりが、現政権による「熟練移民」の積極受け入れ政策と同時期に起きている点だ。
出生率の低下と高齢化が進むドイツでは、高収入を得て税金を納める高度な資格を持つ専門家を切実に必要としており、実際に政府はヨーロッパ外から熟練移民を呼び込み、ドイツで生活・就労させるために積極的な政策立案や法改正を実施している。
しかしその内容は包括的な移民政策とは言い難く、第三国から来る人のうち国の経済に直接かつ即時の利益をもたらす層を選別して受け入れようという姿勢が色濃い。
こうした政策の恩恵を受け、ドイツではインド人移民が増加してきた。
特にホワイトカラー移民と呼ばれる高技能人材や、ドイツの大学に在籍する学生が大多数を占める。
たとえば「Institut fuer Deutschen Wissenschaft」のIW-Report 1/2022によれば、2010年から2020年の間にドイツに住むインド人の総数は4万2,000人から15万9,000人にまで増え、そのうち57.6%がホワイトカラー移民である。
BAMF(ドイツ連邦移民難民局)の調査では現在およそ24万6,125人のインド人がドイツに在住し、さらにドイツの大学に入学するインド人学生は2021年の2万5,149人から2024年には4万2,753人に増加すると予測されている(DeStatis 2024)。
2025年には、インド人がドイツで7番目に多い移民集団になる見込み(Statista.de)だ。
このように移民論争の岐路に立つドイツでは、反移民感情が高まっている一方で、引き続き熟練移民を求める意欲も強い。
インドとの間では、熟練移民法やトリプルウィンプログラムなど複数の二国間協定が新たに結ばれ、移民に有利な政策や法的枠組みが整備されている。
しかし、その一方で高まるAfDの人気には看過できない面がある。
最新のメディア報道や世論調査によると、AfDはキリスト教民主党(CDU)に次ぐ第2党になる可能性が高く、両党が連携するシナリオも示唆されている。
こうした展開は、ドイツに暮らすインド人移民にとっても大きな影響をもたらすだろう。
選挙後、もしAfDが主要野党としての地位を確立すれば、これまで「望ましい移民」とされてきたインド人が依然そのまま歓迎されるかは不透明だ。
経済的・社会的資本を持つ有色人種グループとして、ドイツに住み続けられるのか。
過去のナチスの影が色濃く残り、ネオナチが台頭しつつある現状で、インド人はどの程度安全を確保できるのか。
結局のところ、インド人移民の将来は、ドイツが移民問題全般にどう取り組むかに大きく左右される。
政府の姿勢は国民の共通認識にも深く影響するため、人種差別が高まるなかで、一般のドイツ市民がインド人を脅威とみなす可能性も否定できない。
次期政府が、熟練移民の定住をどこまで想定するのか、あるいは当面の労働力不足を補う一時的な移住だけを念頭に置くのかは、今後の重要な注目点である。
さらに、移住のハードルを下げれば「最も望ましい」とされる層以外の人々も増えることは想定しておかなければならない。
現状、ドイツにいるインド人移民の多くはヒンドゥー教徒や非イスラーム教徒だが、こうした属性に当てはまらないインド出身者に対して、ドイツ政府はどのような態度を示すのかも課題である。
実際、一般市民レベルでは、大学教育を受け、ドイツ語と英語の両方に堪能で経済的に貢献するインド人に対して比較的好意的な見方がある一方、反移民を掲げる政党や一部の極右団体はイスラーム圏だけでなく国外からの移民全般を敵視する傾向を強めており、インド人に対しても根拠のない不信感を煽るケースが散見されるのも事実だ。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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