太陽光発電の推進により、見過ごされてきた大きな代償

 

Posted on 16 Mar 2024 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

忘れてはならない視点です。



2070年までのネットゼロ達成を掲げ、現政権が急速に推し進める再生可能エネルギーへの移行は、一見すると明るい未来を約束するようだが、その裏では強者と弱者の差を広げる、ゆがんだ構造があることを、以下の記事で知った。

India’s energy transition must prioritise social justice

脱炭素化は、気候変動の緩和という主な目的を超えて、さまざまな形で社会に利益をもたらす万能薬として宣伝されているが、これは新技術への投資、安価なエネルギー、メンテナンスと輸送、消費と雇用によって引き起こされる需要の純増加など、脱炭素化に伴うプラスの経済的成果が優先されているためである。
一方、近年の研究で、低炭素化への移行によって最も高い代償を払うのは、すでにこれまで疎外されてきた人々であることも明らかになっている。
ネットゼロ移行における社会正義を優先する包括的な研究を通じて、脱炭素化政策の人的コストを説明する必要がある。

例えば太陽光エネルギー追求によるデメリットとして、以下が挙げられている。

太陽光エネルギーの活用には、発電設備だけでなく、送電インフラ、道路、水道、排水、通信ネットワークなどの共通インフラ施設の建設のために、「ソーラーパーク」として広大な土地が必要となる。
10億世帯に屋上太陽光発電を設置する「Pradhan Mantri Suryodaya Yojana」計画を考慮すると、この傾向は今後も続くと予想される。

国土面積が年間およそ5,000兆キロワットの日射量を受けており、太陽光が最も安価なエネルギー形態の1つであることを考えると、太陽エネルギーには大きな潜在力がある。
この可能性を利用して、現政権は2014年以来、12州50か所にソーラーパーク建設を認可した。
太陽光発電が利用しやすくなれば、農村地域の貧困とエネルギー貧困の削減に貢献できる大きな可能性がある。

一方、経済的成果を優先することは、逆説的に、不平等の拡大につながる。

太陽光発電は確かにクリーンで気候への影響が少ない技術だが、「未使用」または「砂漠」の過疎地域に広大な太陽光発電パークを建設し、太陽光発電を大規模に導入することで、不公平な土地取得が横行する恐れがある。
土地は農村世帯の唯一または主要な資産である。
したがって「Land Acquisition Act 2013(2013年土地取得法)」などが適用され、保護されている。
そこでは、大規模な再生可能エネルギープロジェクトが「影響を受ける家族の生計、牛の水源、放牧地、伝統的な部族組織など」に及ぼす潜在的な影響を評価することを義務付け、「人間的、参加型、情報に基づく透明性のある土地取得プロセス」を確保することを定めている。
しかし、こうした政策は名目上のものに過ぎず、機能していない。

また女性、いわゆる「下位カースト」とされるコミュニティに属する人々、土地を持たない労働者、小規模農家は、大規模なインフラプロジェクトによってさらに疎外されるリスクが高くなる。
地主の農家がソーラーパークの建設のために土地を売却すると、それまで農場で働いていた労働者は職を失う。
パークの建設中は仕事の数は増るかもしれないが、完成すれば単純労働者はソーラーパークで提供されている数少ない技術職に就くことができなくなる。
コスト削減に重点を置くソーラーパークでは、ソーラーパネルの清掃にロボットを採用している。

さらに「2013年会社法(Companies Act, 2013)」では、民間の太陽光発電会社に毎年平均純利益の2%をCSR活動に費やすことが義務付けられており、また政府当局は新たなインフラプロジェクトに地元住民への利益を確保する計画を含めることを約束している。
こうした政策にもかかわらず、無料の電力、質の高い学校、CSR基金の約束は依然として果たされておらず、救済の手段はほとんどない。

太陽光発電プロジェクトの成果の監視と評価は一貫していなければならず、国家機関は社会福祉の約束が確実に守られるよう責任を負わなければならない。
持続可能なエネルギープロジェクトの公平な計画と実行を確保するためにhあ、政府機関と非政府機関の間での協力が必要である。

最後に、人間を取り巻く環境および生態系への悪影響が挙げられる。
大規模なインフラプロジェクトに関する政策計画において、ソーラーパネルの定期的な洗浄に必要な水を供給するため、1日あたり1,100キロリットルの水が必要とされているが、実際にはこれは不十分であることも分かっている。
「2020年環境影響評価(Environmental Impact Assessment 2020)」では、太陽光発電施設は環境認可要件から免除されており、水利用計画に対する法的要件がなく、政策はあいまいなまま放置されている。

また、太陽光発電施設の建設段階で、周辺のチョウやミツバチなどの花粉媒介者が土地を離れ、作物の収量が大幅に減少したとの報告もある。
このように地域の生物多様性は深刻な影響を受ける事態も頻発している。

太陽光エネルギーがもたらす、電気代の削減、過疎地での雇用創出、空気の浄化などの潜在的な利点を、公平に分配し、これまで疎外されてきたコミュニティへの不利益が最小限に抑えられるよう、脱炭素化政策とプロジェクトの社会的側面を認識すること、つまり気候変動目標と持続可能な開発目標の両方を達成することが、インドに求められる重要なステップである。

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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