ベンガルールの女性が照らしてくれたかもしれないインドの未来とは

 

Posted on 28 Jan 2016 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

人は見た目には、その胸のうちにある情熱の炎までは見えにくいものです。



※オンラインで様々なお手伝いを依頼できるサービスもあるんだな。
ゲットドメスティックヘルプ(Get Domestic Help:GDH)」より
 

都市部と農村部で開発に大幅な乖離があり、かつ富裕層と貧困層との絶望的な格差がありながら、中間層の急速な台頭により経済成長が続いているインド。
近年はその勢いが鈍化しているとはいえ、圧倒的な人口パワーと積極的な国民性、何より世界最大規模の民主主義国家である点などを考えても、深刻な大気汚染や環境汚染、複雑な文化的、社会的背景を背負ってなお、明るい将来が描きやすい国と言えるのではないか。

そこでふと、思ったことがある。
インドでは中間層、いわゆるミドルクラスと言われる一定の所得水準以上の家庭では、お手伝いさんや小間使いさんのような人を雇って、掃除や食器洗いから、犬の散歩、子守りに至るまで、家庭内の様々な用事を代行してもらうことが、いわば当たり前に浸透している。

ところが、こうした職業は国内では極めて低賃金であるため、多くの人が斡旋業者に法外な手数料を支払ったり、また人身売買の餌食となるかもしれない危険を冒してでも、中東諸国やシンガポールなどへの出稼ぎを目指している。
そうして海外に移民した人たちの中には、幾多の苦労を乗り越えて現地で事業を興すなどして大成し、二度とインドに帰って来ない人も多い。

今後、22世紀に向けて国全体が急速に豊かになり、現在「ドメスティックヘルプ」に甘んじ、こき使われている人たちが経済力をつけて、こうした職業に就かなくなった場合に、インドは一体どこから人材を供給するのだろう。
現在でも、中間層以上の経済力を持つ人口は2億人とも、3億人とも言われている。
これから豊かな人たちは、生活向上を成し遂げた元ドメスティックヘルプの人たちも含めて、もっと増えていく試算だから、人材不足になるのは確実だ。
実際、シッダールタさんの故郷で、人口もそこそこあるマハーラーシュトラ州内陸のアコラ(Akola)という街では、ドメスティックヘルプの人々が、よりよい手当を求めて大都市部に流出してしまっているようで、よい人材がなかなか見つからなくなっているという。

日本で、メイドさんやヘルパーさんといった人材を海外からの移民に頼るべきか否かという議論がなされて久しいが、うかうかしていると国家が急速に没落して、あなたやあなたの子孫が、インドにドメスティックヘルプとして出稼ぎに来るしかなくなるかも。
それとも、これを絶好の機会と捉え、インド家庭の過酷な要求にも黙って耐え働き、チャパティだって焼いちゃう「お手伝いさんロボット」を開発してバンバン輸出してはいかが。

というのも25日付のThe Better Indiaに、このような話題が掲載されていた。
カルナータカ州の「ITキャピタル」ベンガルールで、ゴミや廃棄物の中から、使えそうなものや金目の物を拾ってわずかな生計を立てるしかできず、周囲に蔑まれ、無視されてきた女性が、NGO団体「Hasiru Dala」の支援を借りつつ努力してトラックの運転免許を取り、ゴミ収集車の運転手という専門の職業を女性として初めて獲得した。

ラクシュミー(Lakshmi)さんというこの女性は、「3人の子供を育てていくために、ゴミ拾いしかできなかった日々も、いつも車の運転ができたらいいのにと夢に見ていた。『Hasiru Dala』の援助で昨年12月31日、ついに運転免許証を手にした時の感動を忘れられない」と語り、現在はベンガルール市内の大学病院で清掃スタッフとして働く傍ら、1トントラックの専門運転手として商用車両運転資格が正式に発給される日を心待ちにしている。

「Hasiru Dala」では、時に危険を伴う廃棄物の山をさまよい、その拾得物で生計を立てることを余儀なくされる人たちに職業訓練を施し、まずは廃棄物処理の専門職に就いてもらうことを第一歩の目標として活動している。

この話題は、取るに足らない、たったひとりの女性の小さな一歩に見えるかもしれない。
しかし携帯電話やスマートフォンの急速な普及により、文字は読めなくてもインターネットラジオなどを活用して情報収集や知識の獲得ができるようになった人たちが、立ち上がり、あっと驚く、誰も予想しなかったような大変革をインド社会にもたらす日が、近い将来やって来ないとは言い切れない。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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