放射線AI分野で攻める、プネーのスタートアップ
Posted on 12 Apr 2021 21:00 in インドビジネス by Yoko Deshmukh
「Hindustan Times」プネー版で一面を使い大きく扱われていました。
「Hindustan Times」プネー版に、いつもお世話になっている人工知能(AI)技術系企業の業務と創業秘話が掲載されていたので、わたしの勉強も兼ねてASKSiddhi(アスクスィッディ)でも抄訳と自分の体験も交えて綴っておきたい。
※ちなみに元記事では、わたしが勝手に「プネーのラスボス」と呼ぶあのお方の詳細な経歴が綴ってあり、わたくしを含むファンや関係者の方々にとっては大変貴重な読み物となっているが、こちらでは割愛する。興味のある方はぜひ、英語の原文にて堪能していただきたい。
Startup mantra: Artificial intelligence in medical space
その企業とはプネーを拠点に、AIの力で放射線画像の解析を行い、結核のほか、現在世界を騒がせている新型コロナウイルス感染症などの疾患の正確な診断を支えようと取り組む「DeepTek」だ。
アジート・パティール(Ajit Patil、インド工科大学 [IIT] で産業工学・運用研究 [Industrial Engineering and Operations Research] 課程で修士号)氏とアミット・カラト(Amit Kharat、DNB放射線診断課程および博士課程 [PhD] を保有、放射線医療分野で17年の実績を持つ現役医師)氏は2017年にDeepTekを共同設立した。
うちアジート氏は、DeepTek設立前の2013年まで、日本市場に特に力を入れた「Vertex Software」というソフトウェア会社を17年ほど経営、日系テック最大手でもあるNTTデータの信頼を勝ち取り、同社に売却した。
わたしはその当時、2004年から2012年までの8年弱ほどの間、一介の現地採用社員として「Vertex Software」にお世話になり、さまざまな貴重な経験を積んだり、アジートさんをはじめとする、素晴らしい出会いに恵まれたりと、充実した日々を過ごした。
アジート氏によれば、イグジット当時の「Vertex Software」は、「日本市場で活動しているインドIT企業としては最大規模で、700名ほどの社員中、200名以上が日本語スキルを有していた」という。
現在同社は「NTT DATA Global Technology Services Private Limited Company」という社名になり、アジート氏は引き続きNTTデータ(東京本社)との強力な関係を維持し続けている。
その後の「DeepTek」設立動機の一端として、アジート氏は次のように語っている。
「人工知能(AI)は、画像分析において非常に強力だ。放射線科では、MRI、CTスキャン、レントゲンなど画像から得られる情報がすべてである。こうした画像を分析し、病状や病気を特定し、感染や疾病の範囲や程度を判定するのが放射線AIだ。用途に応じて無数の機械や設定があるように、人体も同じものはひとつとしてない。こうした様々な機械や人体に有効に働くAIソリューションは重要な課題である。加えて放射線科医師不足はグローバルな問題だ。人口13億人とされるインドだが、CTスキャンやMRIを判読できる放射線科医は8,000人ぐらいしかいない。超音波検査の判読ができる医師も同程度だ。こうした人材不足はイギリス、日本、シンガポール、オーストラリアでも同様の現象である。」
米国内1,000か所の病院で採用される製品を展開していたNTTデータでも放射線AIに注目していたことから、当時NTTデータ最高技術責任者(CTO)だった木谷強(Tsuyoshi Kitani, PhD)氏(現NTT Data Intellilink社長)に相談、「AIにとってデータは、車にとってのガソリンのようなものである」との考えのもと、NTTデータの誇る膨大なデータ量とを組み合わせることで、放射線AI技術を確立できるはずだとの確信を得た。
調査の過程で多くの業界や学際機関、AI、放射線医などの専門家に相談を重ね、最終的に専門医師であるアミット・カラト氏、そしてプネーにある名門工科大学(College Of Engineering Pune、COEP)時代に知り合ったデータサイエンスの専門家であるアニルッダ・パント(Aniruddha Pant)氏とともに、DeepTekの設立とその方向性を固めた。
その後は、NTTデータとの緊密な連携を保ちながら、同社はすでに20名の放射線医と40名のデータサイエンティストを含む、社員数70名まで成長している。
現在はNTTデータのほか、三井物産と、同社系列で日本最大の医療用ITクラウドサービス企業「 NOBORI(ノボリ)」が投資している。
今後の戦略として、アジート氏は次のように語る。
「2017年に設立した当社は決して早期参入者ではないが、ゆえにソリューションを市場に商業展開することの難しさを熟知している。現に放射線AIワークフローの商業的採用はいまだに世界的に見当たらない。一方、病院で診察を受ける時のことを考えてもらうと、誰もが初診時にはレントゲン撮影を受けるはずだ。しかしそこで撮影された画像のほとんどが、適切なレポートとしてまとめられていない。DeepTekのソリューションは特にレントゲン撮影画像で非常に強力な効果を発揮する。20の病状を自動的に識別できるためだ。またDeepTekでは、放射線科医の業務を置き換えるのではなく、それを支え、共存することを目的としている。つまり『専門家を巻き込むループモデル(Expert in loop model)』という方式を確立した。このモデルで、主にインドのマハーラーシュトラ州内にある中小の病院と画像解析センター120か所あまりを顧客として獲得、DeepTekのAIプラットフォームに画像データを移行し、分析を行っている。現在も毎月10か所のペースで顧客を増やしている。昨年は新型コロナウイルス感染症に伴うインド全土封鎖の影響により、海外での機会を模索、日本での顧客獲得をはじめ、インドネシア、フィリピン、アフリカでもパイロット解析を実施している。NTTデータやNOBORIのほか、デリー近郊グルガーオンを拠点とする日印ベンチャーAccelerator GHVや、プネーを拠点とするPentathlon Venturesなどからの投資を受けている。」
現在、同社はチェンナイ市域自治体(Greater Chennai Corporation、GCC)と提携、2019年からは、AI主導型集団スクリーニングプラットフォーム、その名も「GENKI」という人工知能技術系ソリューションを活用、デジタル胸部X線画像からの結核診断のスクリーニングとトリアージを、すでに10万人を対象に実施、2022年までに15万人の患者をスクリーニングすることを目標としている。
アジート氏によれば、世界を席巻する新型コロナウイルス感染症パンデミックでも、CTスキャンは高感度かつ効果的なツールとして進化しており、医療機関で感染者を特定するために欠かせない手法の1つとなっている。
このため日本、中国、シンガポールをはじめとする世界中で多くの研究が行われており、DeepTekでもプネーの主要病院2か所との共同研究に取り組んでいる。
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なお、現状に何ら役立つ情報をご提供できていない「ASKSiddhi(アスクスィッディ)」なので、せめて「在ムンバイ日本国総領事館」より日々発信されている州内の状況や州政府による措置に関する最新情報を、今後はこちらにも転載させていただきたい。
=== 以下、同掲題メールの転載 ===
※3月23日付けのメール、件名「コロナウイルス感染拡大に伴う制限事項(注意喚起)」
【ポイント】
1 3月15日、マハーラーシュトラ州政府は集会等の人が集まる行事に対する制限措置を発表しました。
2 3月19日、ムンバイ市行政当局は、市内のショッピングモール、主要駅他において、来場者を無作為に抽出し抗原検査を行い、検査等を拒否した場合には反則金処分を科す旨を発表しました。
【本文】
1 3月15日、マハーラーシュトラ州政府は集会等の人が集まる行事に対して以下のとおりガイドラインを発表しました。
(1)映画館、ホテル、レストランについては、利用者を50%の収容数にとどめる。
(2)社会的、文化的、政治的、宗教的等一切の集会を禁止する。
(3)結婚式については、50名以上の参加者を認めない。
(4)葬儀については、20名以上の参列者を認めない。
(5)医療関係者等の必要不可欠な業種を除き、全ての事務所は50%に出勤抑制をすること。(テレワークを推奨すること。)
2 3月19日よりムンバイ市行政当局は、市内の混雑が予想される公共施設等において抗原検査(RAT:Rapid Antigen Tests)を実施すると発表しました。当館から市行政当局関係者に確認したところ、詳細以下のとおりです。特にショッピングモールを利用される方はご注意下さい。
(1)検査実施場所
ショッピングモール、主要駅(特定州からの到着路線のみ)、バスターミナル、マーケット、観光施設等の混雑が予想される場所
(2)検査対象者
施設来場者(施設関係者により無作為に抽出)
(3)検査費用
原則無料。ただし、ショッピングモールでの検査は費用が発生します。
※午前中にモールで抗原検査を受診し、午後再度モールを訪れた場合でも検査対象となる場合があります。
(4)免除対象者
・抗原検査受診前72時間以内に検査し取得したPCR陰性証明を所持している者
・ワクチン接種が2回終了した者については、証明書の写し(電子的コピー可)を提示した場合、抗原検査の受診が免除されます。
(5)反則金
抗原検査や検査料の支払いを拒否した者は400ルピーの反則金処分が科せられます。
●在留邦人の皆様へのお願い
1 マハーラーシュトラ州は、インド国内でも感染者が極めて多い地域の一つとなっております。ご自身が感染しないためにはいわゆる3密を避けるとともに、マスクを着用し、こまめに手洗い・うがいをするようお願いします。
2 公共施設等において、抗原検査の受診対象者となった場合には、関係者の指示に従い、検査に協力をお願いします。
3 日本外務省はインドについて「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」の感染症危険情報を発出しています。インドへの渡航を検討されている邦人の皆様におかれては、インドにおける感染状況を踏まえ、渡航の必要性や時期について慎重に御検討ください。
(新型コロナウイルス感染症に関する皆様へのお願い:当館ホームページ)
https://www.in.emb-japan.go.jp/PDF/20201105_rev_Coronavirus_j.pdf
また、以下のインド内務省入国管理局ホームページに、現在入国できる査証カテゴリーや査証取得手続き、事前の自己申告フォーム等の提出、入国後の自主隔離等、外国人の入国に関するインド政府のガイドラインが掲載されていますので御留意願います。
(インド内務省入国管理局ホームページ該当部分)
https://boi.gov.in/content/advisory-travel-and-visa-restrictions-related-covid-19-1
(各種情報が入手できるサイト)
インド政府広報局ホームページ
https://pib.gov.in/indexd.aspx
インド保健・家庭福祉省公式ツイッター
https://twitter.com/MoHFW_INDIA
インド入国管理局ホームページ
https://boi.gov.in/
在日インド大使館ホームページ
https://www.indembassy-tokyo.gov.in/jp/index_jp.html
外務省海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/
厚生労働省ホームページ:新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
首相官邸ホームページ:新型コロナウイルス感染症に備えて
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
マハーラーシュトラ州政府HPアドレス
https://www.mha.gov.in/notifications/circulars-covid-19
ムンバイ市行政当局HPアドレス
https://autodcr.mcgm.gov.in/BPAMSClient2/HTML2/html/downloads.aspx
【お問い合わせ先】
在ムンバイ日本国総領事館領事班
電話: (91-22)2351-7101
email:ryoji@by.mofa.go.jp)
=== 転載終わり ==
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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