「億万長者」の犬たちが暮らすグジャラート州の村

 

Posted on 10 Apr 2018 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

写真のこの子も、あっち側にいるあの子も、薄緑の首輪を着けています。



最近、散歩のたびに近所の野良犬たちや野良猫たちを、かれらの迷惑顔を顧みず激写することを楽しみにしている。

わたしの住むプネー東部の住宅街、カルヤーニー・ナガル(Kalyani Nagar)には、他のエリアと比較しても野良犬の頭数が多いような気がしている。

野良犬と言っても、この地域に住む犬たちはほとんどが薄グリーンの首輪をしている。
以下の記事によると、これは3年間有効な狂犬病ワクチン接種を済ませた犬に着けられる目印なのだそうだ。

Strays vaccinated against rabies get green collars - The Times of India

このように、野良犬たちの頭数は多いものの、いずれも穏やかな性格なのは、周辺の人々が餌をやったり、ワクチン接種をしたりと、よく面倒を見ていることもあるだろう。

もうひとつ、実はカルヤーニー・ナガルには外国人や海外在住インド人の人口が高く、犬や猫を飼っている人も多い。
ところが中には、帰国時や渡航先の国に戻る際に何らかの理由で飼い犬を一緒に連れて行けなくなり、やむを得ずそのまま路上に放して去っていく、という信じがたい行動を取る人も少なからずいるようだ。
そうした背景からか、典型的なインドの野犬的な風貌の犬たちのなかに、外来種の血が明らかに混じっている犬もよく見かける。
それまで家庭で飼われていた犬を平気で路上に放してしまう人たちの神経を疑う。

そうしたスノビッシュな金持ち連中が、アクセサリーやオモチャのように生身の犬たちを弄ぶ傍らで、グジャラート州には70年前から野良犬たちが生涯苦労なく暮らせるよう、専用の土地をあてがい、面倒を見ているという村がある。
しかも近年の地価高騰で、「野良犬専用地」の地価も高騰、犬たちは一躍「カローラパティ(Crorapati:カロールは1,000万を表すので、カローラパティとは百万長者、億万長者のような意味)」になっている。

グジャラート州にあるパンチョット(Panchot)村では、70頭の犬たちが暮らすため、21ビガー(Bigha:インドの土地の単位で、およそ4ビガーが1エーカーに相当)もの広大な専用地が割り当てられている。

この村の人々は、犬の世話をするためとして「Madh ni Pati Kutariya Trust」と名付けられた非公式の基金を持っている。
もちろん犬が土地を所有することはできないものの、土地から得られた収入はすべて犬のために貯金しておくこと、という暗黙の了解がある。

毎年、播種期が近づくと、この土地の各区画が競争入札にかけられる。
その際の最高入札者が1年間にわたって耕うん権を獲得、そこから生み出された収入のうち10万ルピー近くの金額が、犬たちの世話の維持管理費として供出される。

70年前はほぼ無価値とされていた土地の値段は現在、近隣都市を結ぶ動脈的な役割を担うメヘサナ(Mehsana)バイパスが開通したことをきっかけに、7億3,000万(73 Crore)ルピーにも跳ね上がっている。

なぜ、この村の人たちは犬に土地を寄付するという風変わりな伝統を守っているのだろうか。
富裕層による土地の寄贈を発端としたとされる70年以上前から、村人たちは「クタリユ(kutariyu)」つまり、犬との資源の共有を暮らしの哲学として守ってきた。
これはインドで長い伝統を持つ動物愛護の精神、「ジーヴダヤー(जीव दया)」に起源を見い出すことができる。

その後、農業従事者のグループが基金を設立、土地の価格の変動などを追跡している。

ところが非常に興味深い点として、所有者を示す正式な文書が存在しないのに、どんなに財政難に陥っても誰もその土地を売ろうとする人が出てこない。
その理由は、この地方の人々が、動物や社会福祉のために提供された土地を、私欲のために使うことをタブー視する概念に由来するようだ。

こうして日々、朝から晩まで、代わる代わる村人がやってきて、犬たちに餌をやったり、清掃したりと、世話をしている。
さらに満月や新月の日には、「特別メニュー」も用意されると言う徹底ぶりに、思わす笑みがこぼれる。

この村には他にも、エアコンが完備された牛用の入院病棟など、あらゆる種の動物たちの保健衛生のための設備や基金が充実しているそうだ。
動物好きにはたまらない土地だろう。





        



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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