「大相撲」と「ダンガル」、そしてハリヤーナー州の新たな闘志
Posted on 07 Apr 2018 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
自分自身を含めて、人の価値観を変えるのは容易ならざることですが、それでも立ち向かい続け、訴え続けることが何よりも大切です。
21世紀に入りかなり時を経ているのに、依然として次のような驚くべきニュースが日本の新聞社オンラインのヘッドラインを飾る時代だ。
救命処置の女性に「土俵下りて」、相撲協会謝罪 - YOMIURI ONLINE
女性は職業が看護師さんだったということで、次のような詳細な記事も見ることができる。
土俵で救命に当たった女性の初期対応、医師が絶賛「相当トレーニングを積んだ方と思われます」 - HUFFPOST
幸い、倒れた方は一命をとりとめたようだが、先月、親しかった親族を突然の心臓発作で亡くしている身としては、他人事に思えず苦しさのこみ上げる出来事だった。
日本の「国技」大相撲が、意識不明で倒れている人に対する救命措置よりも「土俵への女人禁制」という前時代的な女性蔑視の慣習を優先させる様子が、わたしたちを幻滅させているこのタイミングで、本日7日よりレスリングをテーマにしたインド映画が日本全国で公開されている。
しかも主人公は女性である。
本国インドでの2016年公開時はもちろん、昨年には中国でも爆発的な大ヒットとなった映画「Dangal(邦題:ダンガル きっと、つよくなる)」が2018年4月8日、ついに日本でも劇場公開された。
ダンガル きっと、つよくなる公式サイト
インド版トレイラー
公開に合わせて今朝、福岡のサンスクリット語およびインド哲学専門家、山口英一先生が、次のような記事つきのツイートをされていた。
※なお、山口先生は後日、この発言の根拠となったデータもご提供くださった。
インド全土における女性比率
(出典: Sex Ratio (Females/ 1000 Males),
NITI Aayog (National Institution for Transforming India), Government of India)
実話をもととする「ダンガル」が生まれたのは、農村部に行くほど男尊女卑の価値観が顕在するインドの中でも、特にその傾向が強く、女児の誕生を喜ばない人たちが依然として存在する土地の農村である。
「女がレスリングなんて」という根強い差別意識のはびこる難しい境遇に、父と娘が正面から立ち向かい、立ち上がっていくのである。
たとえば、大相撲での一件で日本の闇に幻滅した人たちに、「インドの方が進んでいる」などという根拠も理由も何もないが、少なくとも「インドは考えている」。
そうした中、同じパンジャーブ州で5日、空手道に精通した若い女性が、痴漢およびストーカー行為に及ぼうとした警察官を叩きのめすという事件があったことを、「The Better India」が伝えた。
National Karate Champion Beats Up Haryana Cop Who Attempted To Harass Her! - The Better India
ハリヤーナー州ロータクに住む21歳のネハ・ジャングラ(Neha Jangra)さんが、帰宅途中にオートリクシャーに乗ろうとしたところ、いきなり知らない警察官が一緒に乗り込んできた。
電話番号を尋ねられたが拒否すると、「友達になりたいんだ」と言われたという。
実はネハさんは、2017年に開催された「第10回インド全国空手道選手権(10th National Level Open Karate Championship)」で優勝した経歴を持ち、この日も空手教室からの帰り道だった。
しつこく言い寄る警察官に業を煮やしたネハさんはついに、2度ほど体当たりして怯んだところで身動きができないよう取り押さえると、リクシャーワーラーに最寄りの婦人警察署(Women's Police Station)に向かわせた。
連絡を受けたネハさんの父親(石工職人)が婦人警察署に駆け付けると、信じられないことに担当捜査官から本件を通報せず示談にし、さらに真実とは異なる供述をするよう、ほのめかされたのだという。
もちろん父娘そのような提案に応じず、翌日インド刑法第354条に基づく事件として正式に申し立てが行われ、当該警察官は性的嫌がらせ行為により停職となり、また刑事罰を受けることになった。
ネハさんの行動は、自衛手段を身に着けることと、身の危険に常に警戒することの重要性を訴えると同時に、わたしたち全員が女性蔑視に対し立ち向かっていくに当たり、「ダンガル」のファイティングスピリットを思い起こさせてくれる。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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