お金ではなく、幸福を追求するキャリアを選んだインド経営大学院出身の若者

 

Posted on 05 May 2017 23:00 in インドビジネス by Yoko Deshmukh

拝金の空虚さは、もう誰もが知ることになった現代。経済成長の著しいインドが、世界に本当に持続可能な成長の手本を示すような発展の仕方をしていくことを心から願っています。



地に足のついた生活により持続可能性を見い出す考え方は、インド人、特に若者を含む、高い教育を受けた者の間で近年、ますます強くなっているように感じる。
わたしの友人や知人にも、退職後はファームハウスで農業をしながら自給自足で暮らすことを目標にしている人が何人もいる。

かく言うわたしは、まだ日々の生活に精一杯で、あまり先のことを考えていないが、その代わりに普段の生活で、徐々にでも、なるべく無駄を少なくするような行動を意識するようにしている。
それでも日本に一時帰国すると、つい余分な買い物をしてしまいがちで、自己嫌悪に陥ってしまうこともよくある。

本日付の「The Better India」でも、いわゆるエリートコースを歩んでいた女性が、仕事を辞めて父親との酪農業の共同経営に大きくキャリア転向したという話題が詳細に紹介されていた。

Why an IIM Graduate Left a Well-Paying Job to Start a Dairy Farm With Her Dad

この女性、アンキタ(Ankita)さんは、やはりかつては技術者として第一線で活躍していた父プールチャンド(Phoolchand)さんと、故郷のラジャスターン州アジメール(Ajmer)で、最新技術を取り入れた酪農経営に取り組んでいる。

2人が酪農業を営むことを考える最初のきっかけになったのは、アンキタさんが幼いころ、重症の黄疸を発症し、医師から汚染のない清潔なミルクを摂取するように指示されたことだったという。
方々を探し回り、辿り着いた結論は、牛を1頭購入し、直接新鮮な乳を得ることだということになった。

もともと農家の出身だったプールチャンドさんは、農業に対する並々ならぬ熱意こそ引き継いでいたものの、豊かな暮らしとは金銭的な報酬を得ることだとの時代の流れに押されるようにして工科大学に進学、卒業後は政府系の部門で働いていた。
高額な給与を得る身分となり、物質的な豊かさは手に入れたかもしれないが、娘のアンキタさんをはじめ、家族の健康状態は良好とは言えなかったという。

「娘のために3,500ルピーで牛を買い、自家製の絞りたてミルクを使った食事を摂るようになってから、みるみる体調がよくなってきたのです。それ以来、私たち家族は、市場へ行っても農薬や化学肥料を使って栽培された農作物に溢れていることに気づくようになりました」

自分たちが食べるものは、自分たちで育てたい、その願いを叶えることは、当初は不可能に思えた。
一方、アンキタさんのために迎え入れた1頭の牛がきっかけで、隣人にも安全・安心して食べられるミルクを販売するようになったという。

やがて成長したアンキタさんが、インドの名門工科大学であるインド経営大学院(Indian Institute of Management:IIM)コルカタ校に進学、多国籍企業への就職も決まった頃合いの2008年、プールチャンドさんは任意退職し、長年の夢だった酪農業に専念することになった。

アンキタさんは確実にキャリアを築き、アメリカやドイツへの出張もこなし、明るい未来が無限に広がっていた。
プールチャンドさんも、故郷アジメールで土地を購入し、穀物や野菜の栽培を始めていた。 

そんなある日、2014年にアンキタさんは突然、世界的に有名な企業の管理職補佐という地位を退職し、父親の酪農業に参画することを正式に決定した。

「ミドルクラスの一般家庭で育った私にとって、キャリア志向はごく自然に抱いており、農業を志すことなど夢にも考えていなかった。しかし父の情熱と、自分自身の体調不良が継続している状況とを考え、農業に加わろうという気持ちが固まった」アンキタさんは説明している。

現在、父と娘が共同経営する農場、「Maatratav Dairy and Organic Farm」では、100頭の乳牛を飼育しているほか、小麦や季節の野菜、果物を栽培している。

アンキタさんが加わってから、彼女の経営スキルや意思決定能力など、IIMや企業生活で身に着けた知識を最大限に活かした経営が行われている。
ヒマーチャル・プラデーシュ州からもたらされたキノコの栽培を試みたり、近隣の農場に有機農法を広めるため、昆虫堆肥プラントを作ったり、乳製品の加工に最新技術を取り入れたり、農場全体の灌漑設備を効率化したり、太陽エネルギーや雨水を活用したりといった、伝統農業と現代農業を組み合わせた、新しい持続可能な方法が試行錯誤されている。

「一定の給与が毎月振り込まれる企業の仕事は、就労時間も一定です。農業には、そういったメリットはありませんが、最大の財産は、健康な生活を送っているという実感を持てることと、次世代に受け継がれる世界を残していけるということにあります」アンキタさんは話している。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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