「お金で解決できる問題ほど易しいものはない」タクシー運転手に手を差し伸べた男性

 

Posted on 16 Dec 2016 23:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

お金というものの本質を、とても鮮やかに表している事例だと思います。



本日付「The Better India」で、たまたま掴まえたタクシーの運転手であったという以外に何の接点も縁もない相手の話を聞き、何かを感じ、行動に移す人がいるということを知った。
ひるがえってわたしが誰かのために何かをする時、これほど純粋な気持ちでそれをできているだろうかと考えさせられる。

A Ride That Changed an Ola Driver’s Life

その人の名はラフール・マハジャン(Rahul Mahajan)さん。

化粧品会社の営業として、都市から都市へ忙しく動き回ることの多いマハジャンさんにとって、それは何でもないごく平凡な日となるはずだった。
チャンディガルでの出張を終え、ホテルをチェックアウトしてバンガロールへ帰るフライトに間に合うよう、ホテルで配車サービス「OLA Cab」の車を予約した。
迎えに来た運転手ラークヴィンダー・シン(Lakhvinder Singh)さんは、マハジャンさんが車に乗り込んでもなお、電話口で誰かと喧嘩腰に議論しているところだった。

電話を切ったシンさんは、マハジャンさんに謝罪するや否や、突如こう切り出したという。
「腎臓を売りたいんだ。手伝ってくれませんか」

マハジャンさんは驚いた。
「君は何を言っているの?それは違法行為だよ。それに君はまだ若いじゃないか、健康な身体にわざわざ傷をつけるなんて」

するとシンさんは、こう答えたという。
「私の家族を養うためには、もう私の身体の一部を売ることしか手段が残っていないんだ。他にどうすればいいと?」

身の上を聞けば、チャンディガル空港そばのナディアリ(Nadiali)という村に住むシンさんの家庭は、他の多くの農村部に住む人々と同じく、非常に困窮していて、一家総出で仕事をしても、わずかなお金しか稼ぐことができず、明日の暮らしも分からない。

そこで、村の貸金屋で高利の融資を受けてでも自家用車を購入、「OLA Cab」の運転手として働き始めたはよいが、1日18時間もの長時間運転をしても、稼いだ金は負債の返済にばかり消えていく。
その日、シンさんが電話で口論していた相手は、まさにこの貸金業者だった。

「『なぜインドってこうなんだろうね?』僕たちはしばしば、ワインでも飲みながら軽い調子で自嘲したりしないだろうか。でも『そんなインド』が多くの人にとっては現実なんです」

話を聞いたマハジャンさんは気づいた時には、シンさんに次のような提案をしていた。
「お金で解決できる問題なのであれば、いっそ解決してみませんか?」

マハジャンさんにとって、問題はそれほどまでに単純に見えたのだった。
さっそくバンガロールへ飛び立つ前に、Facebookに一部始終を投稿、2時間あまりして着陸するころには返信であふれかえっていたという。
その多くは金銭的な支援を申し出る友人たちからのもので、すでに必要な資金の30%が確保できる見通しが立っていた。

「その後も多くの人たちが次々に支援を申し出てくれたので、シンさんの問題は必ず解決できるという確信を持てました」マハジャンさん。

ほどなくシンさんの要求を正式にクラウドファンディング・プラットフォームに移し、キャンペーンの明確さと透明性を確保、より多くの資金を容易に獲得できるようにした。

驚いたのは、クラウドファンディングという概念すら知らなかったシンさんだ。
「見ず知らずの人が、私の話を聞いてくれただけでなく、これほど多くの人たちが時間と労力をかけて手を差し伸べようとしてくれていることを知り、非常にびっくりしている。マハジャンさんは、腎臓を売ることすら覚悟していた私に、人の優しさを教えてくれた。もう一度、地に足をつけて暮らしていけるかもしれない。私はとても幸せだ」

シンさんが車のローンを支払い終えるために必要な資金として、キャンペーンでは総額22万700ルピーを募っている

仕事のことや収支のこと、わたしたちはともすれば、毎日お金のことにばかり気を取られていないだろうか。
わたしもそのひとりだ。

しかし実際にはお金は、人間が作り出したものではあるが、いまや水や空気のような生きる手段のひとつに過ぎず、だからこそ、ひたすら回していけないだろうか。
花や植物の種のように増やしたら、誰もがそれを享受できるような時代はいつ来るのだろうか。
そういうことを強く印象付けられた。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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