話しやすさと生きやすさ
Posted on 10 Feb 2025 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh
現在、絶賛どん底なんだけど、なんとかもがきつつ自分なりの解を見つけたいです。
2003年にインドへ移住しようと決めたときから、わたしはずっと、インドやインド人にまつわるネガティブ情報の多さに葛藤してきた。
近年では、数年単位で入れ替わる駐在員などの在インド日本人がSNSを通じて情報を発信しやすくなり、気がつけば、以前にも増して「安易なラベル付け」で溜飲を下げるような投稿が増えているように思う。
ひとつひとつを詳しく見れば、異国で奮闘する日常の本音にすぎないことも多いし、実際に役立つ情報や励ましになる話題も多々ある。
とはいえ、特に自国民の共感を得やすい発言をすれば、同じ立場や意見の人々とのネットワークを築きやすくなる分、自身の正当性に酔いやすい傾向も見えてくる。
わたし自身、インド人と結婚して20年もここで暮らしていれば、親族を含めて「イヤなやつ」は数えきれないほど見てきた。
そうした人たちの性質や行動パターンに、出身地や国民性による一定の傾向があることも、もちろん承知している。
それと同時に、わたしの中にも「インドやインド人をどこかバカにする気持ち」や「日本や他国と比較して優劣を付けたがる感覚」が、恥ずかしながら完全にないわけではない。
だから、同胞たちがそうしたやり場のない気持ちのはけ口を、手っ取り早く求める気持ちは、とてもよく分かる。
インド在住20年というわたしの前で、わざわざインドの悪口を言いにくる日本人がさほど多くないという事情もある。
そもそもわたしは、「閉塞した社会で戦うよりも、広い世界に出て何かを見つけたい」という思いから、若いうちに日本を飛び出してインドにやってきた氷河期世代だ。
自分の周囲にだけネットワークを築くことで視野が狭くなるのを避けたかったから、ASKSiddhiやSNSで個人的な意見を大っぴらに発信することは控えてきたが、テクノロジーの恩恵により、何かを発信すればたちまち似た意見の人々(あるいはアンチ)が集まってくる今の時代、そうした態度はある意味で正解だったと思っている。
もちろん、似た境遇や同じ国籍の者同士が集まり、互いに同調し合うことには「安心感」を得やすい利点がある。
文化や慣習が大きく異なるインドでは、孤独になりやすいぶん、帰属意識を得られるコミュニティは貴重だ。
実際、日本から物理的にも精神的にも離れたこの地で暮らすには、苦労を共有し合う場は必要だと痛感する。
一方で、そのような集まりが過度に凝集力を高めると、いわば「小さなカルト」のような構造が生まれかねないとも感じる。
そこでは、同じ立場でしか通用しない批判や価値観が強化され、結果として「自分たち vs. 彼ら(現地社会)」という図式がさらに強固になってしまうからだ。
わたしは「狭い世界の常識」に縛られるのを避けたかった。
その結果、同じ日本人コミュニティに深く溶け込むよりも、インド社会や世界各国の人たちとの関係の中で自分を問い続ける生き方を選んだ。
もちろんそのせいで、友人や知人は多くないし、ときには同じ日本人から理解しづらい行動を取る人物と思われているかもしれない。
それでも自分自身を試したかった。
さらに、インド人の夫と共に暮らしていることは混沌としがちな社会における特権でもあり、他の人にはない便益があり、それゆえの特別な視点をもたらしていると感じる。
家庭を通じてインド社会の内側にいるからこそ、現地の価値観や文化を肌で感じつつ、日本人としての視点も同時に保ちやすい。
こうした両方の立場を行き来する経験が、異文化との連帯を深める可能性を生んでくれるし、もしかしたら、コミュニティにどう貢献できるか、そのヒントをもたらすのではないかと思う。
たとえ友達が少なくとも、外部の声に流されず自分の感性を研ぎ澄まし、ほかでもない自分の心の声を聞き取れるようでありたい。
他者と違うことを恐れないでいることは、インドでの暮らしにおいても大きな価値があると思うのだ。
同じ文化圏の仲間に囲まれる安心感と、孤独や逆風に耐えながら自分の軸を貫くこと。
わたしは、そのどちらかを選べる立場におり、ゆえに後者を選んできた。
そしてその選択のおかげで、インドという地で20年暮らし、さまざまな価値観の間を行き来しながらも、何とか自分の頭で考え続けてこられたように思う。
今のわたしの人生は、他人に自慢できるような華々しさはないかもしれない。
けれども、多少の孤独を引き受けても自分なりの生き方を貫くことには、確かな意義があるのだと信じている。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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