(昨日の続き。)
ところどころ山肌から立ち昇るように白い雲が垂れ込めるその日は、「雲の中の里」を意味するメガラヤ州シーロンらしい気候だった。
最高気温の予報は19℃、時折頬を撫でる一陣の湿った風が心地よい。
午後、個人経営のチーズ工房を訪れた。
以前ある業務で触れたテキストにあった、ネパールやチベットなどで親しまれているヤクのチーズ「Churpi」が、この辺りなら買えるかもしれないと思ったためだ。
Google Mapで目星をつけておいた工房まで経路通りに進んでいくと、いつの間にか空軍の管理する区域に迷い込んでいたようで、ライフルを持ったおっかない軍人さんに止められた。
しかし事情を説明したところ、なんと通り抜けすることを許可してくれて、優しい軍人さんだった。
舗装道路を工房の看板を目印に左折し、キリスト教墓地脇の、泥でぬかるんだ細い道を、サンダル履きの足を滑らせないよう気をつけながら入ってゆく。
本当にこの道で合っているのか不安を抱きはじめたころ、ブルーの外壁をした小さな工房の建物が見えた。
勝手に店舗を兼ねた商業的な施設を想像していたので、その佇まいに一瞬、間違えたかなとひるみかけたが、せっかく来たのだしと、格子ガラス戸脇のチャイムを押す。
ほどなくエプロンをかけた非常に若い男性が、バタバタと小走りに出てきてくれた。
彼に「一時停止して」と言われるまで店内のアレクサ(Alexa)が大音量でかけていたのがカントリー系ロック。
ちなみに途中の工事現場の作業員さんが、やはり大音量のスマホで流していたのもメタル系だった。
インドの「ロックの首都」と呼ばれるだけあって、シーロンの人々の音楽に対するこだわりの一端を見た思いがする。
参照: Shillong Rocks_ Northeast India’s Unique Music Scene
マハーラーシュトラ州などでは、若い世代こそあくまで流行りに乗じて洋楽ポップスや韓国系(K-Pop)を消費しているかもしれないが、道端の労働者、バスやトラックの運転手、街中の食堂などなど、日常で聴こえてくる音楽といえば、ガネーシャを讃えるバジャン系や、オールドヒンディーまたはマラーティーソングばかりなので、これだけのこともわたしにとって新鮮な感動だ。
さて、古い表現で「書生」風の男性にチーズを買いに来たことを話すと、大きく頷き再びバタバタと工房の奥へ消えていった。
そして書生くんは何度か店頭(と言っていいのか、シンクとガスコンロ、冷蔵庫があるだけの小さなキッチン)を往復すると、目の前でおもむろにニンニクの外皮を剥き始めた。
その手元を眺めたり、チーズ作り関連本などが無造作に積まれた店内を所在なげに見渡したりながら、どのぐらい待っただろうか。
奥から長身で目鼻立ちのはっきりした、書生くんよりは年かさに見えるがそれでもだいぶ若い男性が出てきて、この方こそ工房のオーナーであった。
謙虚だが堂々とした、まっすぐな眼差しが印象的なオーナー、Melvin Wattson氏によると、残念ながら「Churpi」は作っていない。
チーズ作りは始めてまだ2年ほどで、シーロン市内の一部食料品店にしか流通していないとのこと。
「簡単に辿り着けましたか」と聞いてくれたところを見ると、突然の訪問に驚かせてしまったかもしれない。
その日の工房には、クリームチーズ、フェタチーズ、カマンベールチーズ、そしてゴーダチーズしかないとのことだったので、この先の旅程を考慮しカマンベール1つとゴーダ4つを求めた。
いずれもプネーなどで見かける、フランス等からの輸入物と比べると大きく、どっしりしている。
それでいてゴーダは1つ180ルピー、カマンベールは1つ320ルピーと破格である。
この記事は現在滞在中のグワハティで記録しているので、プネーに戻って味見したら、また戻ってきたい。
(明日に続く。)
工房の中は雑然としつつも清掃の行き届いた清潔感がある。
雲上の町。
隠し撮りしてごめんよ。
実際はもっとイケメンだよ。
Pine Hills Creamery (@pinehillscreamery)
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