農民たちが置かれている状況とは
Posted on 22 Feb 2024 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
わたしたち人間が生きていくために欠かせない仕事に従事する人々を踏みにじろうとしている現状があります。
3年ぶりのデリーでの農民によるデモと、それに対抗して史上初めてドローンを用いた、治安部隊による卑劣な催涙弾やゴム弾の発射による「鎮圧」。
一連の事件を知る上で、知っておくべきポイントをまとめた記事があったので、備忘録のためにも抄訳したい。
Farmers’ Protest in India Reignites: A Struggle for the Future of Food and Agriculture
2021年、1年に及ぶ抗議活動を経て、インドの農民たちは農業部門の「自由化」を目的とした3つの農業法を廃止に持ち込んだ。
それから3年を経た2024年の今、農民たちは、前回の抗議活動を引き起こした根本的な問題と、新自由主義的な農業法人化への動きが依然として残っており、解決されていないとして、再び抗議活動を行っている。
世界銀行、世界貿易機関、世界的な機関投資家、多国籍アグリビジネス大手は、1990年代初頭の為替危機の時代から、インド農業部門の法人化計画を狙ってきた。
そのための「構造調整」と称する政策により、従来の食料生産システムを、契約農業およびそうした利益にかなう農業および食料小売り産業モデルに置き換えようとしている。
その目的は、農業が担う公的部門の役割を、工業用商品作物の農業を必要とする民間資本の仲介者におとしめることである。
それによって恩恵を受けようとする事業体として、Cargill、Archer Daniels Midlands、Louis Dreyfus、Bunge 、インドの大手小売業および大手アグリ事業者、世界的なアグリテック企業、種子および農薬企業、そして「データドリブン農業」を謳う大手テクノロジー企業が挙げられている。
この計画は、農民を追い出して得た土地で新たな市場を創設し、土地所有権を統合して、国内外の土地投資家を招き、工業的農業に適した大規模農場を形成するためにある。
その結果、数億人ともされる国内小規模農家の大部分は農業の存続が不可能になり、すでに無秩序に広がる都市周辺のスラム街に追いやられて、同時に農業的に世界でも有数の肥沃な土地が失われることになる。
農地を奪われた数億人の「元」農民たちは失業者となり、図られた貧困のせいで都市の安い労働力として酷使されることになる。
農民の貧困はまた、投入コストの上昇、政府援助の打ち切り、債務と負債の返済、補助金で守られた安価な輸入品の影響によって、収入が圧迫されているために生じている。
安定した収入の欠如、不安定で操作された国際市場価格への曝露、安い輸入品により、生産コストをカバーできなくなった農民たちは、まともな生活水準を維持することがまずます難しくなっている。
インド政府に対し、農民への支援をさらに削減し、輸出入中心の「自由市場」に貿易を開放するよう求める富裕国からの圧力は、偽善にほかならない。 例えば、政策アナリストのデヴィンダー・シャルマ(Devinder Sharma)氏によると、米国では小麦と米の農家に提供される補助金が、それぞれの作物の市場価値を超えており、ヨーロッパの牛1頭に1日あたりに支給される補助金は、インドの農家の1日分の収入よりも高い。
世界銀行、世界貿易機関、世界的な機関投資家、多国籍アグリビジネス大手は、企業主導の契約農業および農産物の販売と調達のための本格的な新自由主義的市場化を必要としており、インドに対し、一握りの億万長者の利益のために農民と自国の食糧安全保障を犠牲にするよう要求している。
農家は単に、化学薬品やバイオテクノロジーの投入物、および食品加工業および小売業の大手複合企業に原材料を供給する生産者とみなされている。
この場合、企業は農家を搾取すればするほど多くの利益を得ることができる。
そこで、農家には高価な肥料や農業機材を売りつけ、企業主導の市場やサプライチェーンに依存させる。
世界的な農産物企業は、食料主権の根絶と依存関係の構築を、「食料安全保障」と同一視させるような物語を、巧妙かつ狡猾にでっち上げている。
2018年、およそ250の農民組織で構成される統括団体としての「全インド・キサン・サンガルシュ調整委員会(All India Kisan Sangharsh Coordination Committee)」によって、ある憲章が発表された。
農民たちは、略奪的企業の深い浸透、耐え難い負債、および農民と他の部門従事者との格差拡大を懸念していた。
その他の要求としては、農業および食品加工への外国直接投資の禁止、契約農業の名の下での企業による略奪からの農民の保護、農民生産者組織や農民協同組合を創設するための農民集団への投資、適切な作付パターンに基づくアグロエコロジーの推進、各地方ごとの現地の種子多様性の復活などが含まれていた。
一方の政府は無策のままで、実際には2021年に農民による1年間の抗議活動を経て廃止された農業3法は、まさにその逆、つまり国内の農業を大規模な新自由主義的市場化とショック療法にさらすことを目的としていた。
法律こそ廃止されたものの、背後にある企業の利益追求主義は決して消えることはなく、望ましい政策を実行に移すことを政府に断固として求めている。
これは、インドが必須食料品の自給自足と流通を犠牲にし、国家の食料安全保障にとって非常に重要な食料緩衝在庫をなくし、操作された世界的な商品市場で外貨準備を使って国民の食糧を購入することを意味する。
そうなると、国は海外投資と国際金融からの誘致に全面的に依存しなければならなくなる。
食糧主権と国家食糧安全保障を確保するため、ムンバイに本拠を置く「政治経済研究ユニット(RUPE)」は、必須作物や商品を政府調達し、トウモロコシ、綿花、油糧種子、豆類などの栽培地を大規模農場に拡大すべきだと主張している。
インドの一人当たりのタンパク質消費量は恐ろしく低く、自由化以降はさらに減少しているため、公共配給システム(public distribution system、PDS)を通じた豆類の提供が、長期にわたり切実に必要とされている。
PDSはインド食品公社(Food Corporation of India)を通じて政府と協力し、国営の「マンディ(Mandi)」と呼ばれる市場で農家から食用穀物を購入、各州に割り当てる責任を負っている。
2024年の今、農家組合の指導者らは(さまざまな要求の中でも特に)作物の最低購入価格の保証を求めている。
政府は毎年20以上の作物について支援価格を発表しているが、実際に政府機関が購入しているのは、一部州の米と小麦だけにとどまっている。
国家機関は、人口の過半数に相当する8億人以上のインド人に米と小麦を無料で提供するための、世界最大の食糧福祉プログラムを運営するため、これらの作物を政府が定めた最低支援価格で購入している。
少なくとも今後4年間は各世帯が月5キロの必須穀物を受け取ることになるが、これは「自由市場」によってはじかれる。
新自由主義的な市場化を装った企業による略奪は、国の援助に依存して生きる貧しい人々や困窮している人々の味方ではない。
最低支援価格で幅広い作物の公的調達が行われ、すべての州で米と小麦に保証されれば、飢餓と栄養失調に対処し、作物の多様化を促進し、農民の苦痛を軽減し、最終的には多くの専門家が指摘しているように、農業に携わる何億人もの人々を支援し、農村部の購買力と経済全般を大きく後押しすると見込まれる。
公共部門の役割を後退させ、世界中の億万長者と巨大企業にそのシステムを明け渡す代わりに、公的な調達と流通をさらに拡大する必要がある。
RUPEによれば、大企業やそれを経営する超富裕層が受け取っている給付金(インセンティブ)のおよそ20パーセントが失われることになるが、これは大多数の国民にとって何の利益にもならないと指摘している。
2016年にインドの大企業わずか5社に提供された融資が、農業負債全体に匹敵したことも一考の価値がある。
一方で、最低支援価格、公的流通システム、および公的に保有される緩衝在庫の存在が、世界のアグリビジネスの利益を妨げていることは明らかである。
農民たちの要求には、完全な債務免除、農民と農業労働者のための年金制度、2020年電力(修正)法案(Electricity (Amendment) Bill 2020)によって廃止された補助金の再導入、土地取得に関する公正な補償と透明性を得る権利などが含まれる。
現政権は、そうした農民に冷たい姿勢を固持し、企業寄りの政策を推進する姿勢を示すことで、国際金融資本や農業資本を誘致することに熱心である。
政府との交渉決裂を受けて、農民たちはデリーに集まり、平和的ま行進とデモを行うことを決定した。
そうした農民たちに、州境ではバリケードや催涙ガスといった国家による暴力に直面した。
農民たちは、人類にとって最も本質的なニーズを生み出す存在であり、「内部の敵」ではない。
実際には「外部の敵」こそ厳しく監視すべきであり、農民を「反国家」として描くのではなく、インドの食料安全保障と主権を損なうこと、そして農民を貧困に陥れることにより利益を得ようとする、巨大資本に対峙すべきである。
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
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