遙かなる美峰アンナプルナの観光業に打撃

 

Posted on 11 Sep 2023 21:00 in トラベル・インド by Yoko Deshmukh

よかれと思ってしたことが裏目に出てしまった例です。



女神の名を冠するヒマラヤの高峰アンナプルナが、意外な原因による危機に直面しているという記事を、ネパールのニュースサイトに見つけた。

As footpaths shrink, Annapurna trek duration plummets from 28 to 5 days

著名なトレッキング実業家のティカラム・サプコタ(Tikaram Sapkota)氏はかつて、世界10位の高峰、ヒマラヤ山脈に属するアンナプルナ(Annapurna)のトレッキングを希望する観光客に、ラムジュン(Lamjung)を起点として、カスキ(Kaski)からマナン(Manang)、マスタング(Mustang)、ミャグディ(Myagdi)を経由する、28日間のパッケージを販売していた。

ところが僻地のマナンまで到ることができる自動車道が登場したこともあり、アンナプルナベースキャンプ(ABC)までたっぷり15日間程度かかっていたその行程は、現在わずか5日間にまで短縮され、範囲はカンサール(Khangsar)、さらにはマスタング(Mustang)のムクティナス(Muktinath)にまで及ぶようになり、観光業や地元の収入、そして何より自然環境に悪影響を及ぼしている。



自動車道が通っている。
 

サプコタ氏はこうした変化について、「車で高地に至ることで、高度への適応が困難になるため、実際にはトレッキング全体を2日間程度で切り上げる人も多い」と説明する。

さらに、トレッキングの本質である徒歩による自然観察や登山体験は、自動車道によって急速に失われ、それに伴って観光客の数もこの10年で顕著に減少している。

また以前であれば、酸素の少ない高地での排気ガス規制により入れなかったような場所へも、電気自動車の普及により至れるようになり、トレッキングはますます廃れている。

別のトレッキング実業家、ウダヤ・スベディ(Udaya Subedi)さんは、こうした手軽な手段の台頭によりガイドらの士気も低下、従来より徒歩での登山を希望する人が多い外国人観光客への体験旅行手配が困難になりつつあるという。

スベディ氏によると、かつて世界中の登山者の憧れだったアンナプルナ・トレッキングには、毎年およそ3万人を超える外国人観光客が訪れていたが、直近の統計では2018年こそ2万9,500人ほどが集まった一方、2016年にはわずか2万2,000人程度で推移、近年はコロナ禍の影響で激減している。

サプコタ氏は、「かつて歩道があった場所には、そのすぐ脇に自動車道路が建設されてハイカーが激減、こうしたルート沿いで営業していた現地事業主の立ち退きにつながっている。同時に階段や吊り橋といった、徒歩のためのインフラも老朽化が進んでいる」と語った。

同氏は、トレッキングこそネパールらしい観光商品であるにもかかわらず、その保存についてはほとんど関心が示されていないと危惧している。
その上で「道路の建設に反対しているわけではない。歩道を破壊せずに代替手段を提供することを要求しているだけだ」と明言した。

ポカラ観光評議会(Pokhara Tourism Council)元会長ゴピ・バタライ(Gopi Bhattarai)氏もそうした懸念に同意、「トレッキングの喪失が観光の喪失と同等であるとの認識が広まるまで、この状況は続くだろう。トレッキングの減少に伴い、観光部門への投資も弱まる」と述べた。

トレッキング業者を代表する包括的組織であるガンダキのTrekking Agencies Association of Nepal(TAAN)でも、消えつつある登山道について懸念を表明、「インフラは進歩の基礎であると認識されるが、観光業への影響を考慮せずに自動車道路建設が一気に進み、長距離トレッキングは今や過去の遺物になりつつある。新たなルートの探求は続いているが、自動車によって広域にアクセスできるようになったことで、そのように新たに開拓したトレッキングルートは、以前のものより短くなるだろう」と述べている。

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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