インド工科大が支援する完全生分解性の夢の代替皮革、その素材は
Posted on 26 Dec 2022 21:00 in インドビジネス by Yoko Deshmukh
インドに住んでいて心底よかったと思えるのは、あきらめずに行動しようと思える、こんな発明に出会えることです。
インド北部の都市カーンプール(Kanpur)で、動物性皮革に代わる持続可能な素材として、花から作られるフェイクレザー、その名も「Fleather」を作っている企業を、「BBC」が紹介していた。
The vegan leather made from India’s waste flowers
花弁から抽出した原料を、滅菌室に並べたフラスコの中で培養し、その後バイオリアクターと呼ばれる金属製の円筒形容器に仕込み、作られる新素材「Fleather」は、柔らかいラム革のような繊細で滑らかな手触りを特徴とする。
ご存知の通り、動物性の皮革生産は、環境に甚大な悪影響を及ぼす。
エネルギーと水を大量に消費することはもちろん、動物の皮を化学薬品でなめして処理する工程では、水質汚染の元となる有害重金属が放出される。
また、皮の原料となる牛の飼育は、温室効果ガスを発生させ、森林破壊を引き起こす一因になっていると言われている。
「Fleather」を創業したアンキット・アガルワル(Ankit Agarwal)は友人と、カーンプールを流れるガンジス川で近年著しい水質汚染の原因を調べたところ、他でもない「聖なる河」に大量に投棄されるマリーゴールドやバラ、菊など、祈祷などに使用済みの花であることを知った。
しかもこうした花々も儀式に使用されたことから「神聖なもの」とみなされているため、他のゴミと一緒に捨てることができない。
その結果、日々水辺に捨てられる花々から、農薬などの有害な化学物質が溶け出し、やがて朽ちて水質を汚染しているのだ。
この光景に心を痛めたアガルワル氏は、インド特有の問題である寺院の花の廃棄物を活用する方法を考え、2017年、線香にアップサイクルするアイデアに着目し、「Phool(ヒンディー語で「花」)」を設立した。
同社は名門インド工科大学カーンプール校(IIT Kanpur)の支援を受け、その出資者にはボリウッド・スターのアーリアー・バット(Alia Bhatt)氏も名を連ねている。
花を皮革に似た素材に開発するというアイデアは、偶然の産物だった。
2018年のある湿度の高い日、「Phool」の研究開発責任者Nachiket Kuntla氏を筆頭とする科学者チームは、工場の床に積まれた廃棄物の花に白っぽい層があることに気づいた。
子細に見ると、薄い繊維状の網が見え、花に含まれるセルロースから栄養を得た真菌様の微生物が繁殖しようとしていることが分かった。
この現象に興味をそそられた科学者チームは、IITキャンパス内の研究棟を利用して、どういった条件下でどのように生育するのか実験を繰り返した。
最終的に、花びらを水で煮てセルロースとリグニンを抽出し、さらに微生物がより効率的に栄養を取り込み、成長できるよう液状の炭水化物を加えていくと、「革の分子と似たような分子を作る」(研究者談)ことを突き止めた。
これが「Fleather」の始まりで、2021年に生産を開始した。
ただし革の引張強度は8~25メガパスカルのところ、Fleatherは6~10メガパスカルでテストしており、これまで財布やポシェット、サンダルなどのプロトタイプ製品を開発している一方、ベルトのような丈夫な製品を作るには、今後繊維の密度を高めていく必要があるとしている。
また、他の大手が生産する植物性の代替皮革と異なり、Fleatherは完全な生分解性であるのに加え、通気性にも優れている点を大きな長所としている。
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
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