災害時の緊急連絡や復旧活動に、ソーシャル・アプリが大活躍

 

Posted on 14 Feb 2016 23:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

おととしインド東部を襲ったサイクロン「フッドフッド」は、いろいろな伝説を生みました。



*The photo from a copyright-free space

おそらくインドで最も広く利用されているソーシャル・アプリは、ワッツアップ(WhatsApp)だろう。
日本で普及している「ライン(LINE)」と同じく、テキストメッセージの送受信はもちろん、速度に難はあるものの、携帯電話からの定額ネット接続料金さえ支払えば、無料で好きなだけ通話できるとあって、都会の若者から、子供たちが巣立った後も毎日お話したい、田舎に住むお婆さんまで、老若男女問わずインストールしており、スマートフォン利用者の成長を後押ししている。

そのワッツアップが、今やインドにおいて災害対応の重要なインフラとなりつつある、という話題を、世界銀行(World Bank)がそのブログ(Deepak Malik氏筆)の中で実例とともに紹介していたので、本日はその内容を抄訳したい。

2014年10月12日、「カテゴリー4」(最大風速毎秒およそ60~70メートル)という猛烈なサイクロン「フッドフッド(Hudhud)」が、インド東部アーンドラ・プラデーシュ州海岸の町、ヴィシャーカーパトナム(Vishakhapatnam)とその周辺地域を襲い、180万人以上の住民たちに甚大な被害をもたらした。
世界銀行の南アジア災害リスク管理チームは災害後、「世界銀行防災グローバルファシリティ(Global Facility for Disaster Reduction and Recovery)」の協力を得て、アジア開発銀行(Asian Development Bank)やアーンドラ・プラデーシュ州政府と協力して、被害状況の調査に着手した。

被災地訪問時、被害状況調査チームが、現地住民や地方自治体の役人らに幅広い聞き込み調査を行ったところ、誰もが口をそろえて、倒木や漂積物で一時ふさがれた道路が非常に早い段階で開通したと証言していた。
これほどの規模のサイクロン被害があった場合、道路の迅速な復旧と開通は、緊急救援・医療物資を被災者にいち早く届けるために最も重要な任務である一方、非常に困難を伴ういうのが通説だ。
そこで著者が所属する世界銀行の調査チームは、なぜ今回は、これほどスムーズな復旧が可能になったのか、その秘密を詳しく探ることにした。

ある晩、スリカークラム(Srikakulam)地区へ視察に出掛けた帰りの車の中で、著者は同乗していた同州公共事業局(PWD)の主任エンジニア(Superintendent Engineer)、V.ラーマチャンドラ(V. Ramachandra)氏に、疑問を提起した。
するとラーマチャンドラ氏が顔をぱっと輝かせ、ポケットからスマートフォンを取り出しながら言うことには、同局所属エンジニアをメンバーとする「クローズド(限定公開)グループ」をワッツアップ上に作成し、災害時に主な連絡手段としていたことを語った。
実際には、サイクロン「フッドフッド」の来襲後3日間は、電気はおろか、携帯電話ネットワーク接続もない状態だったという。
しかし接続が復元すると、待っていたかのように、この「PWDグループ」上に活発な情報が入るようになり、災害情報共有ツールとして機能したという。

たとえば道路の寸断が見られる箇所を、メンバーのエンジニアが正確な位置と簡単な説明とともにワッツアップに投稿すると、その地域の責任者がこれを確認、道路の復旧を手配し、かかる時間を速やかに応答するという流れだ。
さらに、復旧のための物資や道具類の要望も、このグループ上でリアルタイムにやり取りされ、必要なものが現地にいち早く届けられた。
道路の問題が解決し、無事開通すると、その状態を撮影した写真が報告として投稿される。

そこには、緊急を要する事態には必ずしもふさわいとは言えない、会議室での議論や話し合いの余地はまったくない。
県知事クラスまでもがこのグループに参加して各行政部門に指示を与え、無駄のないオペレーションを実現、おかげでほとんどの道路は被害後3~4日以内という驚異的なスピードで開通したという。

ソーシャルメディアはもはや、私たちの日常生活の一部となり、適切に使用すれば、危機管理のための非常に強力なツールとなり得る。
特に災害時などの緊急事態発生時、わざわざ会議を招集したり、報告書を作成したりなどしている余裕がないような場合に、ソーシャル・メディアや、これに準ずるような、災害時の連絡用に特化したアプリの方が効果的だろう。

著者によれば、昨年末にチェンナイで発生した大規模洪水の際にも、ソーシャル・アプリは災害情報の共有に非常に大きな役割を果たしていたことが分かっている。
こうした経験から学んだことを、今後も早期復旧や緊急対応に、有効かつ効率的に利用できるよう、制度化することが重要だとしている。

余談だが、サイクロン「フッドフッド」は、襲来する前からアーンドラ・プラデーシュ州はじめとする政府が「常に最新情報を入手し、できるだけ通信可能な状態としておくこと」と住民らに呼び掛け、また早期の住民避難を実施したことから、インドを襲ったサイクロン史上、最も人命被害の少ない災害のひとつとなった。
 


ワッツアップでの情報共有の例(元記事Medium.comより






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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