飛行機によく乗る人なら読んでおきたい、この2冊

 

Posted on 14 Jul 2017 23:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

「沈まぬ太陽」を読んだことがない人でも、必ずしも日本の航空会社だから安全というわけではないことが、よく分かります。



総飛行時間2万2,000時間超のキャリアを持つベテラン・パイロット、杉江弘さんによる著書を2冊、立て続けに読んだ。

乗ってはいけない航空会社 Kindle版 
マレーシア航空機はなぜ消えた Kindle版

航空産業の目覚ましい発展により、誰もが航空機を利用して世界中の様々な場所へ、気軽に出掛けられるようになった現代。

しかし「Sky Tracks」社などが発表する航空会社ランキングでは、主に乗客の視点でのサービスの秀劣を評しているのに対し、あまり測られることのない、本当の意味で安全な航空輸送に必要な理念や仕組み、そしてパイロットの資質などが詳しく書かれていて大変興味深い。

航空機が、無事に離陸して着陸するということは、多重の要素が複雑に噛み合って初めて成し遂げられている。
そして慢性化・深刻化するパイロット不足を補うかのような、航空機やコックピット計器類の急速な発展は、必ずしも安全性と比例するものではない。
むしろ人間の本能を無視したデジタル化の推進は、非常事態でとっさの反応ができないパイロットばかりを育ててしまうと警鐘を鳴らしている。

航空運賃の価格競争が進み、わたしたちはともすれば、安ければ安いほどよいという発想で利用する航空会社を選んでしまいがちだ。
しかしその選択は、「金を取るか命を取るか」に繋がることもある。

航空機の運航はもちろん、航空業界について知り尽くしている著者が訴える、「空の安全」の定義はとても説得力があり、こういう本を読んで知識を得ておくことは、航空機を利用して旅行する人すべてにとって有益だと思う。

そして航空機事故の際には、必ずしもその全容が明らかにされるとは限らないこと、特に事故処理を担当する国の事情によって事故処理や捜索活動が振り回されることもあるということは、かなりショックだ。
確かにMH 370の失踪は、衛星による追跡システムが整備され、最先端の機器を搭載した航空機が飛び交う21世紀において、3年以上を経てもなお闇の中というのは、かえって大きな疑問ではないか。
特にナショナル・キャリアと呼ばれる航空会社は国政と癒着しがちという事実は、山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」が描いていた30年以上前の時代から、あまり変わっていないようだ。

ひとまずフランスの航空会社(特にエール・フランス)とマレーシアの航空会社、インドネシアの航空会社を利用することは控えた方がよいのかな。

とはいえ、杉江弘さんの著書は、航空機での旅行を恐ろしいものと思わせるような内容では決してない(杉江さんご自身は、退職後あまり航空機で移動しなくなったとおっしゃっているが)。

わたしたち一般旅行者にはほとんど見えてこない事情を、分かりやすく説明してあり、次の空の旅がむしろ楽しみになっている。
実際には読後、ムンバイからシンガポールへの往復の旅を経験したのだが、「いまごろコックピットの中で、パイロットはこんなことをしているのかな」と思いを馳せることもできた。
なお、かつては乗客がコックピット内を見学することもできたという。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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