世界的評価から検閲へ――スリ監督「Santosh」をめぐる闘い

 

Posted on 26 Mar 2025 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

インドでこそ上映して欲しい問題作なのに。性質の違いこそあれ日本を含むどこの国にも、特定の映像作品上映の壁があるんだな。



ガーディアン紙の報道によると、インド系イギリス人映画監督サンディヤ・スリ(Sandhya Suri)氏が脚本・監督を務め、国際的に高く評価されている「Santosh」が、中央映画検閲所(Central Board of Film Certification、CBFC)の異議により、インドでの劇場公開が認められないことになった。

‘Santosh’, UK’s official Oscar entry, blocked by CBFC for Indian theatrical release



 

「Santosh」は、警察に入隊し、ダリットの少女の殺人事件を捜査する若い未亡人の闘いを描く。
女性蔑視、カーストに基づく暴力、組織的イスラム嫌悪といったテーマを扱ったこの映画は、世界中の批評家から広く称賛されている。
カンヌ映画祭でのプレミア上映では絶賛を集め、アカデミー賞では国際長編部門に英国公式エントリーとなり、アカデミー賞の長編デビュー作品賞に英国からノミネートされた。
主演女優のシャハナ・ゴスワミ(Shahana Goswami)氏も、この映画での演技によりアジア映画賞の最優秀女優賞を受賞した。

こうした海外での成功にもかかわらず、CBFCは同作の劇場公開を承認しなかった。
スリ監督はこの決定に失望を表明した。
警察の暴力を扱う映画はインド映画界では目新しいものではないが、同作は現実的かつ道徳的に複雑な側面を描写していることが、検閲官に問題視された可能性がある。

スリ監督は、「おそらくこの作品の登場人物は、誰もが「道徳的に退廃(morally compromised)」しており、かつ男性ヒーローが存在しないという点が問題なのではないか」と皮肉を込めて述べている。
監督はまた、CBFCのカット要求が非常に広範囲に及ぶため、それを実行すると映画の完全性を保つことは「不可能」だと明かした。
詳細を述べることは法的に禁じられているとした上で、編集が要求されたシーンは数ページにわたり、核心的なテーマに触れていると説明した。
「私にとって、この映画がインドで公開されることは非常に重要だった。しかし、(要求されている)カットをしても、テーマに忠実な、意味のある作品にすることは厳しい」

2012年のデリーでの集団強姦事件、通称「ニルバーヤ事件(Nirbhaya case)」が、スリ監督がこの映画を制作するきっかけとなった。
スリ監督は国内の非政府組織と協力することで、物語の真実性と繊細性を保っている。

CBFCが映画の上映を拒否すると、正式な控訴手続きはないため、映画製作者らは裁判所で決定に異議を申し立てるしかない。
スリ監督は司法手続きの可能性を否定していないが、これは費用と時間のかかる手続きであり、しかも好ましい結果が保証されるわけではない。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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