ココナッツ林に埋もれた1軒の店、そこは「アランボールのブラックホール」だった

 

Posted on 05 Mar 2016 23:00 in トラベルASKSiddhi by Yoko Deshmukh

開演前は「蚊が多いなぁ」と半泣きでしたが、パフォーマンスが始まるや完全に引き込まれてしまい、かゆみなどをまったく忘れるほど夢中になるという、生まれて初めての体験をしました。



ビーチの日もとっぷりと暮れてきたころ、「指圧のグル」が「では、そろそろまいりましょうか」と、われわれを誘ってくれたところは、賑やかなアランボール・ビーチの「中心地」からやや外れ、ヤシの林に囲まれた一角にある半露店レンガ造りのこじんまりとした店、「トーテム(Totem)」だった。

エキゾチックなモザイク模様にタイルが貼られた、コンクリート製の丸い特設ステージを囲むようにしてテーブルのならぶ、この場所こそが、ゴアきってのパフォーマンスが夜な夜な繰り広げられているという、知る人ぞ知る「ハート・オブ・アランボール」なのだ。

事実、よい席を確保するために、パフォーマンス開始時刻の1時間前からヤブ蚊の襲来にもめげずに待っていると、続々と外国人たちが集まって来る。
パフォーマーたちとおぼしき方々は、われわれが到着した時する前からすでにいて、特設ステージ上での準備に余念がない。
ちなみに開演時間までに腹ごしらえでもと、チェンマイ在住フランス人のリクエストでインド定番料理のバター・チキンや、ゴア名物ココナッツ・パンケーキなどを注文したが、この店の食事も、なかなかの味だった。

さて、開演時刻の8時も近くなると、ステージ周囲に敷き詰められた筵(むしろ)っぽい敷物まで、まんべんなく観客が埋め尽くして、盛況の様を呈してきた。
そのほとんどが外国人で、インド人は数えるほどしかいない。
中でもロシア人っぽい人や、ラテンアメリカ系の人が目立つ。
先ほどから上半身裸で忙しそうに準備に勤しんでいた、ロマンスグレーの素敵な紳士が、開演の挨拶に英語とロシア語を交えたから、パフォーマーにもロシア系が多いのかもしれない。

後から聞いた話では、「トーテム」周辺は一大ロシア人コミュニティとなっており、パフォーマンスを稼業とするロシア人たちと、その家族たちが住む大所帯がいくつも点在するのだとか。
滞在先としているモルジム・ビーチ(Morjim Beach)も外国人率が高いが、隣のテントでビーチにも行かずに海パン一丁で朝から晩まで飲んだくれている、丸々と肥ったおっさんたち、そこに吸い寄せられるように集まって来ては、夜な夜な酔っ払って大声で笑ったり、時に言い争いをし、われわれの眠りを妨げてくれる、他のロシア人宿泊客を含めて、ロシア人比率が非常に多いということだ。
そういえば、施設からビーチに出てすぐのシャック(海の家)は、メニューが旧宗主国の言語ポルトガル語でなく、ロシア語併記だ。
ゴアとロシアには、何か特別なつながりがあるのだろうか。
ちょっと調べてみたい気持ちだ。

さて、ここ「トーテム」で楽しむことができるのは、ほぼ完全なる「ノンバーバル・パフォーマンス」。
つまり、言語を介さずとも誰もが理解できる芸術で、幻想的な世界の演出もあれば、笑いもあり、とにかくぐいぐいと引き込まれる完成度の高いものばかり。

それにしても、みなさん驚くほど多才だ。
冒頭に挨拶してくれたロシア系ロマンスグレーは、バイオリンから始まり、シタール、ターブラー、またうっとりするような「ラーガ(Raga)」や「ダー・ディン・ディン・ダー」で知られる「ティーンタール(Teen Taal)」の調べを吟じたかと思えば、鮮やかなブレイクダンスのパフォーマーに、おもむろにボイス・パーカッションの伴奏をつける。

ロマンスグレーとともに登場する、プラチナブロンドの長い髪とほっそりとした長い手足が印象的な、やはりロシア系とみられる若い女性は、チェロの荘厳な調べを奏でた次の瞬間には口琴をリズミカルに鳴らし、また広げたシーツに映像を投影するビジュアル・パフォーマンスを情感たっぷりに演じ切る。
セクシーな古代エジプト風の衣装で登場し、ベリーダンスっぽい舞踊を披露していたときには、会場の誰もが息を呑んで見守っていた。

幕間には「ミスターバナナ(Mr Banana)」が登場、ボールを使ったパフォーマンスや、ジェームズ・ブラウンの口パクなど、余興と言ってしまうにはあまりにも鮮やかな、楽しいショーを見せてくれた。
シッダールタさんによればミスターバナナは、インド中の各種イベントにも頻繁に出張しているようで、よく見かけるとのこと。

あまりにもパフォーマンスに熱中していたことと、暗くて画像が鮮明でなかったこともあり、写真もビデオもほとんど撮影しなかったが、「ミスターバナナ」のFacebookページに、当日の内容と似たパフォーマンスの様子がよく分かる動画がアップされていた。

※それぞれの画像はクリックすると拡大表示できます。


ただいま準備中なり。
 


シタールと口琴のパフォーマンス。
女性が、まるでお人形みたいだった。
 


ミスターバナナ。
開演前にこの方のファッションを見た時に、
「ズボン、もうワンサイズ大き目を選んだほうがよかったんでないかい」
と言いたくなったが、今は、あえてこのサイズを選んでいると思うことにする。
 


「Sasha」さんと呼ばれていた、ブレイクダンスの達人。
すごい筋力で、とてもかっこいい。
人生で一度でいいから、こういうお兄さんとお友達になりたいな。

***

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Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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