日本でも大人気となったテルグ映画「バーフバリ」で、暴君バラーラデーヴァが自らの即位25周年を祝福するため、大勢の奴隷を動員して巨大な金の像を建てる場面があった。

しかしまさか現代のインドで、あの何倍も巨大な像を打ち建てようとしている為政者がいるとは。
その名もナレンドラ・モーディー（Narendra Modi）首相だ。

「South China Morning Post」の報道によれば、ムンバイーのチャトラパティ・シヴァージー国際空港（छ्त्रपती शिवाजी अंतरराष्ट्रीय विमानतळ）沖合に、モーディー政権は「観光客を呼び込むため」と称し、完成すればニューヨークの「自由の女神像」の2倍にあたる212メートルと、像としては世界一の高さを誇ることになる、同名の17世紀ヒンドゥー王の像を建設中だ。

India’s billion-dollar battle to build the world’s biggest statue - South China Morning Post

さらにモーディー政権は、首相の出身地であるグジャラート州に、独立運動の志士、サルダール・ヴァッラブバーイー・パテール（Sardar Vallabhbhai Patel）の像、高さ182メートルも建設中で、両方の「銅像」にかかる費用は、10億米ドルあまりに及ぶとされている。

世界大百科事典「JapanKnowledge」版の「Sardār Vallabhbhāī Thaverbhāī Paṭel」項によるパテールの定義は、次の通り。
「（世界大百科事典引用開始）インドの政治家で，〈インドのビスマルク〉と称される。ガンディーと同じグジャラート出身で，1918年以降その右腕として活動。28年のバールドーリー闘争で政府の地租引き上げを撤廃させて有名となり，〈サルダール（指導者）〉の称で呼ばれる。31年の国民会議派カラチ大会議長。ネルーに比べて保守的側面が強いが，ガンディーを通じてインド民族資本と強いつながりを持ち，また中央と地方を結ぶ国民会議派の組織体系の確立に果たした彼の役割は大きい。独立後も副首相・内相としてネルーを支え，新生インドの政治体制づくりに尽力したが，その最大の功績の一つは独立期の大問題であった藩王国統合の断行である。（引用終了）」

うち総工費4億3,000万ドルとされるパテール像は10月31日にモーディー首相が出席して執り行われる予定の竣工式に合わせ、数百人の中国人労働者を含む2,500人の労働者が文字通りの24時間態勢で働いている。
この像は完成すれば、153メートルの位置にある展望室からの眺望を楽しめるようになっているとあって、モーディー首相は「ニューヨークの自由の女神像のように、たくさんの観光客を呼び込むことになるだろう」などと説明している。
ただし、像の建つ場所は最寄りの都市アラハバードから250キロも離れた、ダムしかない場所だが。

モーディー首相にとっては、パテールは与党であるインド人民党（Bharat Janata Party）の象徴とも言える存在で、次回の総選挙戦が間近に迫る中、前回と同様利用したいのだろう。

一方、パテール像を遥かに凌ぎ、総工費5億1,500万ドルともされる常軌を逸したシヴァージー像については、2016年にモーディー首相列席の下で着工式が行われている。
先週には空港名の「チャトラパティ・シヴァージー」に「王」を表す称号である「マハラージ」を付け加えるとの政府発表がなされるなど、同州内で多数派を占める右寄りのヒンドゥー教徒マラーティー（マラータと呼ばれることもある）の歓心を買うための段取りが着々と進んでいるようだ。

あまりにもあからさまで、現実から目を逸らした票集めのためだけのパフォーマンスに、湯水のようにカネを使うモーディー政権は、果たしてお約束通りに再選されるのだろうか。
そして歴史上、高い建物や塔、像を建てるようになった首領は滅びる時期が近いとされているが、こちらは現実になるだろうか。