店外にまで漏れ聞こえる祈りの音楽に導かれるように足を踏み入れると、そこはヒマラヤの麓へとつながる別世界。
プネーにいながら、ヒマーチャル・プラデーシュやインド北東部州、レー・ラダック、ネパール、ブータンの家庭の味が一堂に会した、不思議な空間が広がっていた。
主菜には、刀削麺のような見た目が楽しい「Thenthuk(テントゥク)」を注文。
手でちぎった生地をそのままスープで茹で上げた、チベットの家庭料理だ。
何も伝えなくても2つのボウルに分けて提供してくれる心遣いも嬉しい。
肌寒い雨季のプネーにぴったりの、じんわりと体を温めてくれるやさしい味のスープで、スパイスの気配はほぼ皆無である。
テントゥク
このほか、香ばしく揚げ焼きされた魚の「Macha Tareko」、炭火でジューシーに焼き上げられたチキンの「Sekuwa」を注文した。
付け合わせのグリーンには、まるでシソのような爽やかな風味がある。
この手の付け合わせは、刺身のツマしかり、
わたしはすべて食するヒトである。
お通しとして提供された「Aloo ko achar(じゃがいものアチャール)」は、さっぱりとしながらもヨーグルトで和えた複雑なスパイスが効いており、思わずおかわりしたくなる味。
実際、おかわりを大盤振る舞いしてくれた。
これがほんとうに侮れないウマさなのである。
デザートにはネワール族の伝統菓子「Yomari」を狙っていたが、今回は調理に時間がかかるとのことで断念。
お会計は、上記3品と食後のコーヒーで1,700ルピーとやや高級の部類に入るだろう。
メニューには、ナガランド州周辺の郷土料理である「タケノコと豚肉の煮込み」や、ブータンの唐辛子とチーズの煮込み「エマダツィ」など、他ではなかなか味わえない一品も。
ランチ・ディナーともに、さまざまな料理を少しずつ楽しめる「ターリー(Thali)」も用意されていた。
インスタント麺「WaiWai」を砕き、生のまま刻み玉ねぎ、トマト、青唐辛子、コリアンダー、マスタードオイル、レモン果汁、ネパールのミックススパイスなどと和える「WaiWai sadeko」もあった。
スタッフの控えめで温かな接客もよい。
プネーの多くの飲食店で感じる「押しの強さ」とは無縁で、まるで旅先の家庭におじゃましたかのような、リラックスした気持ちで食事を楽しめた。
なお、この「Yeti」レストランは、プネーのほか、デリー、グルガオン、ブバネシュワル、さらにはカトマンズにも店舗を展開しているようだ。
ヒマラヤ文化と食の魅力を届ける、小さいが力強い存在感を放つレストランである。
チキンのセクワはちょっと塩気が強かったかな。