「インド人の大部分は菜食」というステレオタイプに一石

 

Posted on 09 Apr 2018 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

歴史と同じく、ステレオタイプも力を持つ者のプロパガンダであることが多いのがよく分かります。



日本に一時帰国している際に知り合った人に、インドに住んでいることを話すと、「インド人は牛肉を食べないんでしょ」とか、「インド人は菜食主義者(ベジタリアン)なんでしょ」とか決めつけられてしまうことがよくあるのだが、そのたびに「そういう人もいるけど、全員がそうではない」ことを説明するのに苦心する。

昨日、シッダールタが共有してくれた以下のBBC記事では、その実態がつまびらかになっている。

The myth of the Indian vegetarian nation - BBC

「インド人は大部分が菜食主義者である」というのは世界的な「定説」のようになっているが、実際にはずっと割合が低く、インド政府により3回に亘って実施された調査によると、「菜食主義者」と推定される人口は全体の23~37%にとどまることが分かった。

この調査結果についてアメリカを拠点とする人類学者のバルムルリ・ナタラジャン(Balmurli Natrajan)博士とインドを拠点とする経済学者のスーラジ・ジェイコブ(Suraj Jacob)博士は、「文化的かつ政治的な圧力」のために実際よりも数が膨らんだものであると、その根拠を示しながら指摘している。

博士らによると実際には菜食主義者はもっと少なく、特に(過激派ヒンドゥー教徒の暴力に怯え、公言できない)牛肉消費の実態については、その人口はさらに多くなるだろうと報告している。

博士らの調査によれば、インド人で純粋な菜食主義者とされる人は全人口の20%程度であり、また人口の8割を占めるヒンドゥー教徒が、当然もっとも大量の肉を消費している。

政府データによれば、ヒンドゥー教徒のうち菜食主義者世帯は3分の1程度で、そのほとんどを特権階級、いわゆる「上位カースト」に属し、すなわち肉食する世帯よりも一般に所得が高く、消費支出が高い人々が占め、一方で肉食世帯は「下位カースト」とされる社会的な地位の低い世帯が中心となっている。

インドの都市の中で菜食主義者の割合が高いのは、順番にインドール49%、メールート36%、デリー30%、ナーグプル22%、ムンバイー18%、ハイダラーバード11%、チェンナイ6%、コルカタ4%となっている(出典:「National Family Health Survey」)。
ヒンドゥー教「最高カースト」であるブラーミン人口が多いとされているプネーはもちろん、一般に「菜食主義者の多い州」と言われるグジャラート州からひとつも都市が入っていないのは意外だ。

ただし両博士は、インドにおける牛肉の摂取量は、公式見解やステレオタイプよりもはるかに高い可能性を示唆している。

政府調査では、インド人の牛肉消費は全人口の7%ほどとなっている。

しかしナレンドラ・モーディー(Narendra Modi)首相が率いる現与党、ヒンドゥー教国家主義を原則とする「バラティヤ・ジャナタ党(BJP)」が菜食主義を推進し、牛を保護すべきとの政策を導入、多くの州で食肉用の牛の屠殺を禁止していることに加え、ヒンドゥー教徒の「自警団」による牛肉消費者に対する集団リンチ事件が多発するなど、「文化的、政治的、集団的なアイデンティティの強要」がある。
従って、こうした公式データが根拠とする申告数は、実態よりも「かなり」少ないことが明らかであるとしている。

例えばヒンドゥー教徒の中でも「不可触賤民」として長い間、差別にさらされてきた「ダリット(Dalit)」と呼ばれる人々、それからイスラーム教徒やキリスト教徒は、牛肉を食べる習慣がある。
ケーララ州やナガランド州など、キリスト教徒が多数の州では、高価なヤギ肉よりも牛肉が好まれる傾向にある。

こうした背景を踏まえて、ナタラジャン博士とジェイコブ博士は、牛肉を消費するインド人は全体の15%近くに達すると結論付けており、これは公式数値のおよそ2倍にあたる。

では、「インド人の大部分が菜食主義者」との国であるという神話は、どのように広まっていったのか。

博士らはインドのように「同じ社会集団内にあっても、数キロメートルごとに食習慣や調理法が変化する多様な社会にあって、(中略)共同体や宗教、また国全体を代表できる力のある者の発する声が、その集団を代表するかのように機能する」と説明し、すなわち「人口の大多数を占めるヒンドゥー教徒の中で、上位カーストとみなされ高い地位と権力を握ってきた人々が『菜食(Vegetarian)』こそ最上の食習慣とし、『非菜食(Non-vegetarian)』という言葉を作ることで『食物の階層』を築いてきたこと。ちょうど植民地時代に統治者が『白人』と『非白人』という言葉を使って差別を横行させてきたことと理論が似ている」と説明する。

この他にも興味深い分析が綴られていたが、まとめると「インド人の多く(数億人)は牛肉も食べ、大部分は肉食」と次からは答えられるだろう。





      



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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