「ダンガル(Dangal)」日本公開目前:たくさんの人に観て欲しいけど...

 

Posted on 10 Mar 2018 21:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh

「なぜそうなった?」という、疑問をぶつけてみました。



インド映画に対する無知ゆえの偏見は、恥ずかしながら15年もこの国に住んでいるわたしも、少なからず持っていた。
だから、インドで実際にあった話に基づく2016年の映画「ダンガル(Dangal)」が、中国で記録的な大人気、という話題を目にしても、「いつか観よう」と思いつつすぐに行動を起こさなかった。

そんな中、今年1月に日本からインドへ戻るANA成田・ムンバイー便の機内で、ついにフルバージョンを日本語字幕付きで観て、ものすごく感動してフライトアテンダントさんが心配して話しかけてくださるほどの滂沱の涙に浸った。

中国でも大人気を博したアーミール・カーン主演、「ダンガル(Dangal)」を機内で視聴 - ASKSiddhi



 

インド映画と言うと「歌や踊り」とか、「悲惨なインドの現状を無視した非現実的なファンタジー」とか、「(ムンバイーを拠点とするヒンディー語映画『ボリウッド』とか、チェンナイを拠点とするタミル語映画『コリウッド』などの呼称から連想する)ハリウッドの二番煎じ」みたいなイメージが先行しがちだ。

しかし実際にはインド映画には非常に幅広いジャンルがあり、また一般に23語もの公用語が存在するとされていることから分かるように、各言語で制作される映画の特徴はそれぞれ異なる。
そして年間制作数は、一説には2,000本にも届きそうな勢い(2017年現在)であり、文句なしに世界最多であると同時に、映画館で個人が鑑賞する際のチケットの値段は、地方の小都市の劇場などで35~50ルピー、プネーも含めた大都市でも75~200ルピーと、日本などと比較すると非常に安い。

つまり、激しい競争に勝ち残り、13億の国民の大部分の支持を受けてスーパーヒットした作品だけが、おそらく海外進出できるだけの資金回収ができるのである。

とは言え冒頭の通り、インドに限らず映画全般の知識が乏しく、それほど積極的に観ている方ではないわたしが、インド映画事情について偉そうな講釈を垂れる資格はない。
ただひとつ、ものすごく疑問と言うか違和感を抱いていることがある。

この4月に日本で公開されることになっている、アーミル・カーン(Aamir Khan)主演の「ダンガル きっと、つよくなる」は、今年初めに発表された日本公開用のポスターが本国のものとあまりにかけ離れた雰囲気になっていることと、「きっと、つよくなる」などという要らぬ副題が発表された頃から、主にツイッター上でその違和感に物議を醸していた。



左がインド公開時のポスター。
 

ポスターだけならまだしも、日本語字幕の内容が実際の台詞とは異なり、父子が最高峰への到達に向けて挑戦した国際大会、「コモンウェルツ大会(英国を含め、旧イギリス帝国植民地だった国々が参加する国際的なスポーツ大会)」が「オリンピック」に、最終的には「コモンウェルツ・デリー大会」が「ロンドン・オリンピック」にすり替えられている(これはトレイラーで確認済み)に至っては、開いた口が塞がらない。
繰り返すが、「ダンガル」は「実話に基づくストーリー」だ。
ちなみに、わたしが1月にANA機内で観た時には、「オリンピック」ではなく「コモンウェルツ大会」または「国際大会」となっており、コンテクストに沿っていて違和感なく楽しめた。
これをそのまま使うわけにはいかなかったのかな。

他にも、カットされているシーンも結構あるのだと言う。
そもそも、日本で熱狂的なファンを集める爆発的な大人気となっている、2015年および2017年公開のテルグ映画シリーズ、「バーフバリ」でも、日本公開版からは大切なシーンが大量にカットされていて、ファンたちはフルバージョンの配給(またはフルバージョンのDVDやBlu-rayの発売)を心待ちにしている(させられている)状態だ。

海外の作品を日本で公開するにあたって、重要シーンをカットしたり、台詞をすり替えたりする意図は何なんだろうか。

「それでも日本で上映されるだけ、多くの人に知ってもらえるだけマシだ」とおっしゃる方もいて、確かにそれも一理ある。
けれど、せっかく幾多の苦難を乗り越えて日本で公開する運びになった作品なのだから、最初からスッキリとフルバージョンで上映して欲しい。
そもそも、ハリウッド映画みたいに「全国○○系一斉ロードショー」じゃなくて、どうせ一部の映画館でしか上映しないんでしょ?
できないはずないよね。

失礼ながら日本の多くのテレビ番組のように、「お茶の間ウケ」だけを目指した薄っぺらいエンターテインメントでなければ、どうせ理解されないだろうと、日本の映画ファンをバカにしているのではないか。
実際、本日のツイッター上では、せっかく「巨人の星」の作者、川崎のぼるさんが描かれた素晴らしいイラストが掲載された映画館公開用ポスターに、「マイナー映画なのに」とか、「インド映画なのに歌わない、踊らない」とか、作品内容とまったく関係ない、不要かつ失礼なキャプションが添えられているとして、ファンたちの怒りの声が次々と挙がっている。
そんな改悪をした中途半端な公開をするのなら、いっそ持ち込まなければいいのにと思ってしまう。

このままでは、日本で公開されている海外作品に対する不信感を抱くことになってしまいそうだ。

インド映画ファンとはとても名乗れる身分ではないし、せっかく日本で上映されることになった「ダンガル」だから、ぜひ盛り上がって欲しいという気持ちはもちろんあるが、無理やりこじつけたような形での公開が、果たしてどれほどの人の心に届くのか、どうしても疑問に感じてしまう。





          



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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